「米」と「糠(ぬか)」。お米屋さんから見れば、主役はやはり「米」で、「糠」はその副産物というイメージがありますね。
儲けで言えば、当然「米」の方が大きそうです。しかし、「慣れぬ米商い(あきない)より慣れた糠商い」ということわざは、意外にも「糠商い」の方に価値を置いています。
これは一体どういう意味なのでしょうか?この少し古風な響きを持つことわざが教える、現実的な知恵について見ていきましょう。
「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」の意味・教訓
「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」とは、たとえ利益は少なくても、自分がよく慣れていて勝手がわかり、確実に行える商売(仕事)のほうが、よく知らない分野で大きな利益を狙う、不確実で危うい商売よりも堅実で良い、という意味のことわざです。
- 慣れぬ米商い:不慣れで勝手がわからず、リスクも高いかもしれないが、うまくいけば大きな利益が期待できる仕事のたとえ。
- 慣れた糠商い:利益は小さいかもしれないが、経験があり、手順もわかっていて、確実にこなせる仕事のたとえ。
このことわざは、経験の価値や堅実さの大切さを説いています。一攫千金を夢見て不慣れなことに手を出すよりも、たとえ地味であっても、自分の得意なこと、よく知っていることで着実に利益を上げていく方が賢明である、という教訓を示しています。身の丈に合った選択をすることの重要性を教えてくれる言葉とも言えるでしょう。
「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」の語源
このことわざの明確な語源や出典は特定されていません。しかし、江戸時代の商人の経験則や教訓の中から生まれたと考えられています。
当時の「米」は、主要な商品であると同時に相場の変動が激しく、大きな利益を生む可能性もありましたが、失敗すれば大損害を被るリスクも高い商いでした。一方、「糠」は精米時に出る副産物で、利益は小さいものの、漬物用や家畜の飼料などとして安定した需要があり、扱いやすかったと考えられます。
このような背景から、不慣れでリスクの高い「米商い」に手を出すよりも、たとえ儲けは少なくても、手堅く確実な「糠商い」の方が良い、という教えが生まれたのでしょう。
「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」が使われる場面と例文
このことわざは、新しい事業や転職、投資などを考える際に、ハイリスクな挑戦よりも堅実な道を選ぶことの利点を説いたり、自分の経験や能力を活かすことの大切さを伝えたりする場面で使われます。
- 未経験の分野で大きな成功を夢見る人に対して、慎重さを促す時
- 利益は小さくても、長年続けてきた得意な仕事の価値を再確認する時
- リスクの高い儲け話に対して、警鐘を鳴らす時
例文
- 未経験の株取引で一儲けしようとする友人を見て、「慣れぬ米商いより慣れた糠商いと言うよ。まずはよく知っている分野で着実に増やしたらどうだ」とアドバイスした。
- 「給料は安いかもしれないが、この仕事は長年やってきて勝手も分かっている。慣れぬ米商いより慣れた糠商いさ」と彼は言った。
- 新しい事業も魅力的だが、まずは今の得意分野をしっかり固めるべきだ。慣れぬ米商いより慣れた糠商いとも言うだろう。
「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」の類義語・関連語
堅実さや経験の重要性を示す、似た意味を持つ言葉や関連する表現です。
- 知らぬ道より知れる道:知らない危険な道を行くよりも、よく知っていて安全な道を行く方が良い。経験や慣れを重視する点で共通。
- 餅は餅屋:その道のことは、やはり専門家が一番である。自分の得意分野で勝負することの重要性を示唆。
- 高きに登るには卑(ひく)きよりす:高い目標を達成するには、まず身近なことから順序立てて進むべきである。堅実なステップの重要性。
- 堅実:手堅く確実で、危なげがないこと。
- 着実:地についたやり方で、危なげなく物事を進めるさま。
- 身の丈に合った:自分の能力や分相応であること。
「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」の対義語
リスクを取ることや、大きな利益を狙う姿勢を示す言葉です。
- 虎穴に入らずんば虎子を得ず:危険を冒さなければ、大きな成功や利益は得られない。リスクを取ることを推奨。
- 当たって砕けろ:成功するか失敗するかは考えず、結果を恐れずに思い切って行動せよ、ということ。
- 一攫千金:一度に、たやすく大きな利益を得ること。
- ハイリスク・ハイリターン:危険度(リスク)が高い代わりに、成功した場合の利益(リターン)も大きいこと。「慣れぬ米商い」がこれにあたる可能性がある。
これらの言葉は、「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」が示す堅実さとは対照的に、リスクを覚悟で大きな成果を求める姿勢を表します。
「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」の英語での類似表現
英語で「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」のニュアンスに近い表現を探してみましょう。
- Better the devil you know than the devil you don’t know.
- 意味:「知らない悪魔より、知っている悪魔の方がまし」。不慣れで未知の困難やリスクよりも、たとえ好ましくなくても、慣れていて対処法がわかる状況の方が良い、という意味。状況の類似性から。
- A bird in the hand is worth two in the bush.
- 意味:「手の中の一羽の鳥は、茂みの中の二羽の価値がある」。不確実な大きな利益(茂みの中の二羽)よりも、たとえ小さくても確実な利益(手の中の一羽)の方が価値がある、という意味。堅実さを重んじる点で共通。
- Stick to what you know.
- 意味:「自分の知っていること(得意なこと)を続けなさい」。不慣れなことに手を出すより、経験のある分野で活動することを勧める表現。
まとめ – 堅実さと経験の価値
「慣れぬ米商いより慣れた糠商い」は、大きな利益を求めて不慣れなことに手を出すよりも、たとえ利益は小さくとも、経験があり確実にこなせる仕事の方が堅実で良い、という現実的な教えを説くことわざです。
この言葉は、長年の経験によって培われた知識や技術の価値、そして地道で着実な努力の大切さを教えてくれます。もちろん、新しいことへの挑戦をすべて否定するものではありません。
しかし、大きな決断をする際には、このことわざが示す「堅実さ」という視点も忘れずにいたいものです。
自分の足元を見つめ、経験を活かすことの重要性を、この言葉は静かに語りかけているようです。
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