初心忘るべからず

ことわざ
初心忘るべからず(しょしんわするべからず)

11文字の言葉し・じ」から始まる言葉
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何かを始めた時の新鮮な気持ちや情熱は、時間が経つと薄れてしまいがちです。
そんな時、私たちを戒め、原点に立ち返らせてくれるのが「初心忘るべからず」という言葉です。

この広く知られた言葉が持つ本来の意味や背景、そして現代におけるその価値について見ていきましょう。

「初心忘るべからず」の意味と教訓

「初心忘るべからず」とは、「物事を始めた時の謙虚で真剣な気持ちや、最初の志を忘れてはならない」という意味の戒めの言葉です。

慣れや慢心が生まれた時に、始めたばかりの頃の未熟さや熱意、志を思い出し、気を引き締め直すことの大切さを教えてくれます。あらゆる分野や場面で、謙虚さと向上心を持ち続けるための重要な心構えとして用いられます。

「初心忘るべからず」の語源 – 世阿弥の教え

この言葉は、室町時代に能楽を大成した世阿弥(ぜあみ)が、後継者のために記した芸の伝書『花鏡(かきょう)』の中に登場します。

世阿弥にとっての「初心」とは、単に「始めたばかりの頃」という意味だけではありませんでした。
若い頃の未熟な芸、その時々にぶつかる壁や課題、そして老いてからの新たな境地など、芸の修行における各段階での未熟さや経験を指していました。

それらを忘れずにいることが、さらなる芸の深まりに繋がると説いたのです。

「初心忘るべからず」が使われる場面と例文

現代では、世阿弥の深い意味合いから少し広がり、主に「始めた頃の気持ちを忘れないように」という戒めとして広く使われています。

  • 新しいことを始めた人への激励やアドバイスとして
  • 仕事や学業、趣味などで慣れが出てきた自分自身への戒めとして
  • 長年の経験を持つ人が、改めて原点を見つめ直すきっかけとして

様々な状況で、謙虚さや情熱を保つための心構えを示す際に用いられます。

例文

  • 「新入社員の皆さん、初心忘るべからずの精神で、これから頑張ってください。」
  • 「最近、練習に身が入らないな。初心忘るべからず、だ。もう一度基本から見直そう。」
  • 「長年この道一筋でやってきたが、初心忘るべからず。若い頃の情熱を思い出す必要がある。」

「初心忘るべからず」の類義語

  • 始めを慎む(はじめをつつしむ):物事の最初を大切にし、慎重に行うこと。
  • 敬始敬終(けいしけいしゅう):最初から最後まで、気を抜かず敬意をもって物事に取り組むこと。
  • 勝って兜の緒を締めよ:成功しても油断せず、さらに心を引き締めるべきだという戒め。慢心を戒める点で共通する。

「初心忘るべからず」の対義語

  • 三日坊主:飽きっぽくて長続きしないこと。
    ※始めた時の決意が続かない点で対照的。
  • 得意忘形(とくいぼうけい):得意のあまり、我を忘れて本来の姿や本分を見失うこと。
    ※謙虚さを失う点で対照的。
  • 傲岸不遜(ごうがんふそん):おごりたかぶって、人を見下し、謙虚さがないさま。

「初心忘るべからず」の英語での類似表現

  • Don’t forget your original intention.
    意味:最初の意志(意図)を忘れるな。
    ※「最初の志」に近いニュアンスです。
  • Remember your beginner’s mind.
    意味:初心者の心を覚えておけ。
    ※禅の言葉としても知られ、「初心」の持つ謙虚さや先入観のない状態を大切にする考え方に通じます。
  • Stay humble.
    意味:謙虚でいなさい。
    ※「初心」が持つ重要な要素の一つである謙虚さを表します。

「初心忘るべからず」に関する豆知識 – 世阿弥の「初心」の深さ

一般的には「最初の気持ち」と解釈されることが多い「初心」ですが、世阿弥の『花鏡』を読むと、より深い意味合いがあることがわかります。
世阿弥は「若年の初心」「時々の初心」「老後の初心」というように、人生や芸道の各段階における未熟さや、その時の学びを「初心」と捉えました。
失敗や未熟さを否定せず、それを糧として成長し続けることの重要性を説いているのです。

まとめ – 「初心忘るべからず」を心に刻む

「初心忘るべからず」は、単に昔を懐かしむ言葉ではありません。物事を始めた時の純粋な情熱、謙虚な姿勢、そして未熟だった自分自身を忘れずにいることで、私たちは慢心することなく成長し続けることができます。

何かに行き詰まったり、慣れを感じたりした時には、この言葉を思い出し、自分の「初心」と向き合ってみてはいかがでしょうか。
きっと新たなエネルギーや視点を与えてくれるはずです。

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