「渡る世間に鬼はなし」の意味・教訓
「渡る世間に鬼はなし」とは、世の中は無情な人ばかりではなく、親切で情け深い人も必ずいるものだ、という意味のことわざです。
一見すると冷たく、厳しいように感じられる世の中(渡る世間)であっても、本当に恐ろしい「鬼」のような、冷酷非情な人間ばかりではない、と説いています。困っている人を見れば手を差し伸べてくれるような、温かい心を持った人がどこかにいるという、人間社会や他者への信頼と希望を表しています。
どんな人にも心の奥底には思いやりがあり、窮地に立たされたときには誰かがきっと助けてくれるはずだ、という前向きなメッセージが込められています。
世の中も捨てたものではない、と感じさせてくれる言葉です。
「渡る世間に鬼はなし」の語源
このことわざの正確な語源は明確にはなっていませんが、江戸時代頃から使われるようになったと言われています。
- 渡る世間:私たちが生きていく、広い世の中全体を指します。「世間を渡る」とは、人生を生きていく、世の中を経験していく、という意味合いです。
- 鬼はなし:「鬼」は、ここでは恐ろしい存在や冷酷な人の比喩であり、「そのような人ばかりではない」「本当の意味で恐ろしい人はいない」という意味になります。
当時の庶民の暮らしの中での相互扶助(そうごふじょ)の精神や、危険も伴ったであろう旅の途中での助け合いの経験などから、人々の善意や温かさを実感する中で、このことわざが生まれてきたと考えられています。
「渡る世間に鬼はなし」が使われる場面と例文
このことわざは、人の優しさや思いやりに触れて感動した時、困難な状況で誰かから思いがけない助けを受けた時、あるいは人間不信に陥っている人を励ます際などに使われます。世の中には善良で親切な人が多いことを実感し、それを伝えたい場面で用いられることが多いでしょう。
- 見知らぬ土地で困っていた時に、親切な助けを受けた時
- 落とし物が無事に戻ってきた時など、人の誠実さに触れた時
- 困難な状況で、周囲の支援や励ましを受けた時
- 人間関係に疲れたり、人を信じられなくなったりしている人を勇気づける時
例文
- 見知らぬ土地で道に迷っていたら、地元の人がわざわざ目的地まで案内してくれた。まさに渡る世間に鬼はなしだと実感した。
- 財布を落として途方に暮れていたとき、拾ってくれた人が親切にも届けてくれた。渡る世間に鬼はなしとはこのことだ。
- 就職活動で落ち込んでいた友人に「渡る世間に鬼はなしだよ。きっと君を評価してくれる人がいるはずだ」と励ました。
文学作品やメディアでの使用例
このことわざは、脚本家・橋田壽賀子氏による国民的な長寿テレビドラマ『渡る世間は鬼ばかり』のタイトルとしても非常に有名です。
ドラマでは、家族や隣人との間で起こる様々な出来事を通して、時に厳しくも、根底には温かい人の繋がりがあることを描き、多くの視聴者の共感を呼びました。
(※ドラマのタイトルは、ことわざを逆説的に使用しています。)
「渡る世間に鬼はなし」の類義語・関連語
人の親切心や、それがもたらす良い結果に関連する言葉です。(直接的な類義語は少ないです)
- 情けは人の為ならず:人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、巡り巡って自分にも良い報いがある、という意味。「渡る世間に鬼はなし」が世間の温かさを説くのに対し、こちらは個人の親切とその見返りに焦点を当てている点で異なりますが、人の善意を肯定する点で関連します。
- 人情:人が本来持っている、他人への思いやりや温かい心。
- 相互扶助(そうごふじょ):互いに助け合うこと。
「渡る世間に鬼はなし」の対義語
人間や世の中に対する不信感を表す言葉です。
- 人を見たら泥棒と思え:他人を簡単に信用せず、常に警戒すべきだという教え。「渡る世間に鬼はなし」が示す人間への信頼とは正反対の考え方。
これらの言葉は、「渡る世間に鬼はなし」が示す世の中の温かさや人間への信頼とは対照的に、不信感や警戒心を説いています。
「渡る世間に鬼はなし」の英語での類似表現
英語にも、世の中の温かさや人の親切心を感じさせる表現があります。
- There are no strangers, only friends you haven’t met yet.
- 意味:「見知らぬ人はいない、ただまだ出会っていない友人がいるだけだ」。アイルランドの詩人イェイツの言葉とも言われ、出会う人の中に温かさや友情を見出そうとする前向きな姿勢を示します。
- Kindness is found in unexpected places.
- 意味:「親切は思いがけないところで見つかるものだ」。予期せぬ場所や人から親切を受けることがある、という経験則を表し、「渡る世間に鬼はなし」の考え方に近いと言えます。
- The world is full of nice people. If you can’t find one, be one.
- 意味:「世界は素敵な人で満ちている。もし見つけられないなら、あなたがその一人になりなさい」。世の中の善意を信じ、自らも親切であろうとする、現代的なメッセージ性を持つ表現です。
「渡る世間に鬼はなし」に関する豆知識
このことわざで使われる「鬼」は、昔話に出てくるような角や牙を持つ妖怪としての鬼だけを指すわけではありません。比喩的に、冷酷で、人の心を持たない恐ろしい人間、あるいは敵対する存在を表しています。
また、日常会話などでは「世間に鬼はなし」と、「渡る」を省略して使われることもあります。意味合いはほとんど同じですが、「渡る」が付くことで、「人生の道のり」や「世の中を経験していく中で」といったニュアンスがやや強調されます。
まとめ – 人と人との繋がりが生み出す温かさ
「渡る世間に鬼はなし」は、私たちが生きるこの世の中は、決して冷たい人ばかりではなく、必ずどこかに温かい心や思いやりが存在することを教えてくれる、希望に満ちたことわざです。
困難な状況に陥った時、ふとした瞬間に人の優しさに触れた時、この言葉は私たちの心を温め、人間への信頼感を思い出させてくれます。
現代社会では、時に孤独を感じたり、人間関係の難しさに直面したりすることもありますが、「渡る世間に鬼はなし」という考え方は、人と人との繋がりの中に希望を見出し、前向きに生きていくための支えとなる、普遍的な価値を持っていると言えるでしょう。
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