私たち日本人にとって、最も身近な主食である「米」。古くから日本の文化や生活、経済の中心であり、人々の精神性にまで深く関わってきました。
そのため、日本語には「米」にまつわることわざや慣用句、故事成語、四字熟語が数多く存在します。
この記事では、そんな「米」に関連する言葉を集め、その意味や背景を探ります。普段何気なく使っている言葉のルーツを知ることで、日本語の豊かさや、「米」が持つ文化的な意味合いを再発見できるでしょう。
「米」に由来する言葉 一覧
ここでは、「米」そのものや、米作り、米から作られる食品、米にまつわる習慣などに由来することわざ、慣用句、故事成語、四字熟語を種類別に紹介します。

ことわざ
- 有る時は米の飯(あるときはこめのめし):金銭がある時は贅沢をし、なくなると質素になる、金遣いの荒らさや計画性のなさのたとえ。
- いつも月夜に米の飯(いつもつきよにこめのめし):良いことばかりが続くわけではない、という世の常や戒め。
- 内の米の飯より隣の麦飯(うちのこめのめしよりとなりのむぎめし):自分のものより他人のものの方がよく見えることのたとえ。「隣の芝生は青い」と同義。
- 思をし召しより米の飯(おぼしめしよりこめのめし):風流なことや名誉よりも、現実的な利益(食欲を満たすこと)を優先すること。「花より団子」と同義。
- 粉米も噛めば甘くなる(こごめもかめばあまくなる):質の劣る米でもよく噛めば甘みが出るように、つまらないものでもよく吟味すれば良さがわかること。また、辛抱強く続ければ結果が出ることのたとえ。
- 米一粒も粗末にするな(こめひとつぶもそまつにするな):一粒のお米も無駄にしてはいけないという、食べ物を大切にする教え。農家の苦労への感謝も含む。
- 米櫃を握る(こめびつをにぎる):家計の中心である米びつの管理をすることから、家計の実権や財布の紐を握ること。
- 米食った犬が叩かれずに糠食った犬が叩かれる(こめくったいぬがたたかれずにぬかくったいぬがたたかれる):大きな悪事をした者が見逃され、小さな悪事をした者だけが罰せられる、世の中の不公平のたとえ。
- 米の飯と天道様は何処へ行っても付いて回る(こめのめしとてんとうさまはどこへいってもついてまわる):ご飯と太陽は、人が生きていく上でどこへ行っても必要不可欠なものであるということ。
- 米の飯に骨(こめのめしにほね):あるはずのないこと、滅多にないことのたとえ。
- 米を数えて炊かしぐ(こめをかぞえてかしぐ):非常に貧しく、米粒一つまで数えるほど切り詰めて生活すること。極貧のたとえ。
- 千石万石も米五合(せんごくまんごくもこめごんごう):どんな大富豪でも一日に食べる米の量は五合程度であることから、富の多さに関わらず人間の基本的な必要量は限られているということ。足るを知る教え。
- 慣れぬ米商いより慣れた糠商い(なれぬこめあきないよりなれたぬかあきない):不慣れで大きな儲けを狙うより、たとえ利益は小さくても、慣れていて確実な仕事の方が良いという教え。堅実さの重要性。
- 女房と米の飯には飽かぬ:妻と白いご飯は、毎日接していても飽きることがない、かけがえのない大切なものであるということ。
- 糠の中で米粒探す(ぬかのなかでこめつぶさがす):多くの無用なものの中から、わずかな価値あるものや目的のものを探し出すこと。骨の折れる困難な作業のたとえ。
- 糠の中にも粉米(ぬかのなかにもこごめ):価値がないように見えるものの中にも、少しは価値のあるものが混じっていることのたとえ。
- 糠を舐りて米に及ぶ(ぬかをねぶりてこめにおよぶ):まず糠をなめるような苦労や下積みを経験し、やがて米(成功や安定した生活)にたどり着くこと。苦労を経て成功するたとえ。
- 飯の種(めしのたね):生活していくための収入を得る手段。職業や商売のこと。
- 他人の飯を食う(たにんのめしをくう):親元を離れて、他人の家で奉公したり、社会に出て苦労を経験したりすること。
- 冷や飯を食う/食わされる(ひやめしをくう/くわされる):家族の中で自分だけ冷たいご飯を出されることから、不当な冷たい扱いを受けること。
- 絵に描いた餅:餅の絵は美味しそうでも食べられないことから、計画などが実際には役に立たないこと、実現不可能なことのたとえ。(餅は米から作られる)
- 棚からぼた餅:思いがけず幸運なことが舞い込んでくることのたとえ。(牡丹餅は米から作られる)
- 糠喜び(ぬかよろこび):期待が外れて、一時的な喜びに終わること。糠が価値の低いものとされることから。(糠は米の副産物)
- 糟糠の妻(そうこうのつま):酒粕(かす)や米糠(ぬか)のような粗末な食事を共にして、貧しい時から連れ添ってきた妻のこと。
慣用句
- 同じ釜の飯を食う(おなじかまのめしをくう):同じ場所で一緒に生活し、苦楽を共にすること。仲間意識や連帯感を表す。
- 白米三百俵(はくまいさんびゃくぴょう):長岡藩の故事に由来し、目先の利益より将来への投資(教育)を優先することのたとえ。ここでの「白米」は具体的な価値を持つものの代表。
- 赤飯を炊く(せきはんをたく):もち米と小豆などで作る赤飯は、古くから祝い事の席で食べられたため、めでたいこと、お祝い事をすることのたとえ。
故事成語
- 五斗米の為に腰を折る(ごとべいのためにこしをおる):中国の詩人・陶淵明が、わずか五斗(約90リットル)の米の給料のために、上役にへりくだることを嫌って官職を辞したという故事から。
生活のためとはいえ、信念を曲げて人に仕えることの屈辱をいう。 - 米塩の資(べいえんのし):生活していく上で最低限必要な費用や物資のこと。米と塩が生活必需品の代表であったことから。
四字熟語
- 一粒万倍(いちりゅうまんばい):一粒の籾(もみ)が実って万倍もの米粒になることから、わずかな元手から非常に大きな利益が生じることのたとえ。また、努力が大きく報われること。(ことわざとしても使われる)
- 五穀豊穣(ごこくほうじょう):米・麦・粟(あわ)・黍(きび)・豆などの主要な穀物が豊かに実ること。豊作を願う言葉。(五穀の内容は時代や地域で異なるが、米は常に含まれる)
まとめ – 日本人の心に根付く「米」の文化
こうして見てみると、「米」が単なる食料としてだけでなく、生活の糧、人間関係、価値観、さらには人生の教訓に至るまで、いかに深く私たちの言葉や文化に根付いているかが分かります。
一粒のお米を大切にする心、共に食卓を囲むことで生まれる絆、苦労を共にした夫婦への敬意、そして米作りを通して得られた自然への感謝や努力の尊さ。これらの言葉は、米と共に生きてきた日本人の精神性を映し出しています。
普段使っている言葉の中に隠された「米」の存在に気づくことで、私たちの文化や歴史への理解がより一層深まるのではないでしょうか。
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