恩を仇で返す

ことわざ 慣用句
恩を仇で返す(おんをあだでかえす)

9文字の言葉」から始まる言葉
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人から親切にしてもらったり、助けてもらったりした経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
そうした「恩」に対して、私たちは感謝の気持ちを抱き、いつかお返しをしたいと思うものです。しかし、世の中には残念ながら、その恩を裏切るような行為も存在します。

「恩を仇(あだ)で返す」という言葉は、まさにそのような状況を表すことわざです。

「恩を仇で返す」の意味・教訓

「恩を仇で返す」とは、人から受けた恩に対して感謝するどころか、反対に害を加えるような仕打ちをすることを意味します。

「恩」は、人から受ける恵みや親切、助けなどを指します。一方、「仇」は、恨みや憎しみの対象、または危害や損害のことを意味します。
つまり、本来感謝すべき相手に対して、まるで恨みでもあるかのように、ひどい仕打ちをする行為を指すのです。

このことわざは、そのような行為が、人の道に外れた、許されがたい裏切りであることを強く非難し、戒める教訓を含んでいます。
人間関係の基本である信頼を根底から覆す行為であり、道徳的に許されないこととされています。

「恩を仇で返す」の語源

このことわざの直接的な語源となる特定の物語や出来事は伝わっていませんが、「恩」と「仇」という対照的な言葉を用いることで、その行為の非道さや理不尽さを強調しています。

古くから、人々の間で、受けた恩を忘れたり、裏切ったりする行為は、強く戒められてきました。そうした社会的な通念や道徳観の中で、自然発生的に生まれた表現と考えられます。

感謝の気持ちを持ち、恩には恩で報いることが人間として当然の道である、という考え方が根底にあると言えるでしょう。

「恩を仇で返す」が使われる場面と例文

このことわざは、主に人の恩知らずな行為や裏切りを非難したり、嘆いたりする場面で使われます。

  • 世話になった人や助けてくれた人に対して、損害を与えるような行為をした時
  • 親切心を利用して、相手を陥れるような行動をとった時
  • 信頼していた人から、ひどい裏切りを受けた時

例文

  • 「彼を信頼して重要な仕事を任せたのに、会社の機密情報を持ち出すなんて、まさに恩を仇で返す行為だ。」
  • 「苦しい時にあれほど親身になって助けてくれた友人を裏切るなんて、恩を仇で返すにもほどがある。」
  • 「親が学費を出してやったのに、ろくに大学にも行かず遊び歩いているとは、恩を仇で返すようなものだ。」
  • 「まさか長年仕えた主君に弓を引くとは…。恩を仇で返すとはこのことか。」(歴史物語などで)

文学作品やメディアでの使用例

昔話や物語、ドラマなどでは、登場人物の裏切り行為や恩知らずな性格を描写する際に、この「恩を仇で返す」という表現がしばしば用いられます。聴衆や読者に、その行為がいかに非道であるかを印象付ける効果があります。

「恩を仇で返す」の類義語・関連語

「恩を仇で返す」と似た意味を持つ言葉や、関連する表現を見てみましょう。

  • 飼い犬に手を噛まれる:日頃から面倒を見て、かわいがっていた者から裏切られたり、害を受けたりすることのたとえ。世話をしていた相手からの裏切りという、より具体的な状況を示す。
  • 後足で砂をかける(あとあしですなをかける):世話になった人や場所から去る際に、感謝するどころか、迷惑や損害を与えるような行為をすること。去り際の裏切り行為に焦点がある。
  • 恩知らず:受けた恩を忘れ、感謝の心がないこと、またそのような人。「恩を仇で返す」は、恩知らずな人がとる具体的な行動の一つと言える。
  • 反哺の逆(はんぽのぎゃく):(故事成語)カラスの子が親鳥に餌を与える孝行(反哺)とは逆に、子が親に孝行しないこと。特に親への恩を仇で返すような、親不孝な行為を指す。
  • 裏切り:信頼や約束にそむくこと。
  • 背信(はいしん):信頼を裏切ること。約束を破ること。

「恩を仇で返す」の対義語

反対の意味を持つ言葉としては、以下のようなものが考えられます。

  • 恩に報いる(おんにむくいる):受けた恩に対して、感謝の気持ちを行動で示すこと。
  • 恩返し:受けた恩に対して、何らかの形で報いること。
  • 結草報恩(けっそうほうおん):(故事成語)死んだ後までも、受けた恩を忘れずに報いようとすること。固く恩に報いる決意や、深い感謝の気持ちを表す。
  • 一飯の恩を忘れない(いっぱんのおんをわすれない):一度食事をご馳走になったといった、わずかな恩義さえも決して忘れず、感謝すること。
  • 感恩報謝(かんおんほうしゃ):恩を感じて、感謝の気持ちを表し報いること。

「恩を仇で返す」の英語での類似表現

英語で「恩を仇で返す」のニュアンスに近い表現を探してみましょう。

  • Bite the hand that feeds you.
    • 意味:自分に餌を与えてくれる手を噛む。
    • まさに「飼い犬に手を噛まれる」と同じ状況を表し、「恩を仇で返す」の最も近い英語表現と言えます。
  • Return evil for good.
    • 意味:善に対して悪を返す。
    • 「恩」を「善」、「仇」を「悪」と捉えた、より直接的な表現です。
  • Stab someone in the back.
    • 意味:誰かの背中を(ナイフで)刺す。
    • 一般的な裏切り行為を指す表現ですが、恩人を裏切るという文脈でも使われます。

これらの表現は、文化を問わず、恩を裏切る行為が非難されるべきものであることを示しています。

まとめ – 「恩を仇で返す」ことから考える信頼の大切さ

「恩を仇で返す」という言葉は、人から受けた親切や助けを踏みにじり、逆に害を与えるという、最も避けたい人間関係の裏切りを表しています。

このことわざは、私たちに、受けた恩に対する感謝の気持ちを忘れず、誠実さを持って人と接することの大切さを教えてくれます。信頼は、社会や人間関係を成り立たせるための基盤です。「恩を仇で返す」行為は、その基盤を破壊してしまう深刻な裏切りと言えるでしょう。

誰かに助けてもらったこと、支えてもらったことへの感謝を忘れず、できる形でその恩に報いていく。そうした誠実な姿勢こそが、温かい人間関係を育み、私たち自身の心も豊かにしてくれるのではないでしょうか。

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