「獅子身中の虫」の意味・語源・由来
意味
組織や集団の内部にいながら、その組織や集団に害をなす者、恩を仇で返す者のたとえです。
本来、百獣の王である獅子は、他の動物から恐れられる存在です。
しかし、その獅子の体内に寄生する虫は、獅子の肉を食らい、ついには獅子を死に至らしめます。
このことから、内部の敵、内通者、裏切り者といった意味合いで使われます。
語源・由来:
仏教経典である『大般涅槃経(だいはつねはんぎょう)』に由来する言葉です。
経典の中では、「獅子」は仏教、「獅子身中の虫」は仏教徒でありながら仏教に害をなす者を指しています。
以下、該当箇所の現代語訳です。
「たとえば、獅子が死んで、その肉の中にいる虫がその肉を食らうように、私が亡くなった後、私の教えを信じる者たちの中に、教えに背き、教えを破壊する者たちが現れるだろう。」
この教えが転じて、広く一般的に「組織内部の裏切り者」を指す言葉として使われるようになりました。
「獅子身中の虫」の使い方(例文)
- 「長年信頼していた部下が、実は競合会社のスパイだったとは。まさに獅子身中の虫だ。」
- 「彼は、長年組織に貢献してきたように見えたが、裏では会社の情報を漏洩していた。獅子身中の虫だったのだ。」
- 「今回のプロジェクトの失敗は、獅子身中の虫による情報漏洩が原因だった。」
- 「組織のトップが私腹を肥やしていたことが発覚した。これぞまさに獅子身中の虫だ。」
- 「不正会計をしていたのは、長年経理を担当していた社員だった。獅子身中の虫とはこのことだ。」
注意! 間違った使い方
- 「彼はいつもチームの足を引っ張っているけど、獅子身中の虫というほどではない。」
※「獅子身中の虫」は、単に能力が低い、やる気がないというだけでなく、意図的に組織に害を与える、裏切るといった強い意味合いを持ちます。単なる能力不足の人に対して使うのは適切ではありません。
「獅子身中の虫」の文学作品などの用例
吉川英治の小説『三国志』には、以下の用例があります。
「(前略)—が、いまの袁紹軍には、内訌がある。獅子身中の虫だ。いずれは、蟷螂(とうろう)の斧(おの)も、役に立たなくなってしまうだろう……」
「獅子身中の虫」の類義語
- 内股膏薬(うちまたごうやく):定見がなく、あちこちにつく人のこと。節操のない人のたとえ。
- 飼い犬に手を噛まれる:日ごろから面倒を見てやった者から、裏切られたり、害を加えられたりすること。
- 裏切り者:信じていた相手に裏切られること。
- 内通者:組織などの内部にいながら、敵とひそかに通じている者。
- 背信行為:信頼を裏切る行為。
「獅子身中の虫」の対義語
- 股肱の臣(ここうのしん): 君主の手足となって働く、信頼できる家来。
- 忠臣:君主や国家に忠義を尽くす家臣。
使用上の注意点
「獅子身中の虫」は、非常に強い非難の言葉です。
内部の裏切り者や、組織に害をなす者を指すため、使用する際は注意が必要です。
軽々しく使うと、名誉毀損や侮辱にあたる可能性もあります。
「獅子身中の虫」の英語表現
A serpent in one’s bosom.
直訳:胸の中の蛇
意味:獅子身中の虫(恩を仇で返す者)
例文:
He was a serpent in our bosom, secretly working against us all along.
(彼は私たちの獅子身中の虫で、ずっと密かに私たちに敵対していた。)
The enemy within.
直訳:内なる敵
意味:獅子身中の虫(組織内部の敵)
例文:
The CEO discovered that the leak came from within the company; it was the enemy within.
(CEOは、情報漏洩が社内からであることを突き止めた。それは獅子身中の虫だった。)
まとめ
「獅子身中の虫」は、組織内部にいながら害をなす者、恩を仇で返す者を指すことわざです。
仏教経典に由来し、本来は仏教に害をなす者を指していました。
非常に強い非難の言葉であるため、使用には注意が必要です。
組織のリーダーは、このことわざを教訓に、内部の不正や裏切りに目を光らせる必要があります。
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