意味・教訓
「ミイラ取りがミイラになる」とは、人を捕まえに行く者が、逆に相手の仲間になってしまうことのたとえです。
原義は、ミイラを求めてエジプトに行った者が、そのまま現地で命を落とし、ミイラになってしまうこと。
そこから転じて、説得に行った人が逆に説得されたり、ある目的で出かけた人が当初の目的を忘れてその場にとどまったりするなど、意図した結果とは逆の結果になる状況を指すようになりました。
このことわざには、強い意志を持つことの重要性や、目的を見失うことへの戒めが込められています。
語源・由来

このことわざの起源は、江戸時代に遡ります。
当時、ミイラは万能薬として珍重されており、日本にも輸入されていました
(※ミイラは、古代エジプトで作られた人間の遺体で、当時は、その油や粉末などが薬として用いられることがありました)。
ミイラを手に入れるためには、エジプトなどの遠方まで危険な旅をする必要がありました。
しかし、砂漠の過酷な環境や盗賊の襲撃などにより、命を落とす者も少なくありませんでした。
「ミイラ取りがミイラになる」は、こうした危険を冒してミイラを探しに行った者が、結局は自身もミイラになってしまうという皮肉な状況を表した言葉です。
使用上の注意点
このことわざは、相手を説得したり、問題解決を試みたりする際に、逆に自分が相手の影響を受けてしまうことを戒める文脈で使われます。
必ずしも否定的な意味合いだけでなく、ある種のユーモアや自虐を込めて使われることもあります。
友人同士の会話で、軽い冗談として使われることもあります。
ただし、使う相手や状況によっては、失礼にあたる場合もあるので注意が必要です。
使用される場面と例文
「ミイラ取りがミイラになる」は、主に以下のような場面で使われます。
- 説得に行った人が、逆に説得されてしまう場面。
- ある目的で出かけた人が、途中で気が変わってしまう場面。
- 批判していた人が、いつの間にか同じことをしている場面。
例文
- 「不良息子を更生させようと家出した父親が、ミイラ取りがミイラになるで、自分も放浪癖がついてしまった。」
- 「友人をマルチ商法から救い出そうとしたら、自分が勧誘されて、ミイラ取りがミイラになるところだった。」
- 「残業を減らすよう会社に直訴に行った社員が、ミイラ取りがミイラになるで、結局誰よりも遅くまで残業している。」
- 「悪徳業者を懲らしめようとした弁護士が、ミイラ取りがミイラになるで、相手の顧問弁護士になってしまった。」
文学作品等での使用例
泉鏡花の小説『外科室』には、以下のような一節があります。
「(前略)伯爵夫人の手術の介添を仰せつけられたのでございますが、(中略)その時分から、どうやら、ミイラ取りがミイラになるような、お気の毒な了見があるようでございます。」
この場面では、手術に立ち会った医師が、患者である伯爵夫人に恋心を抱いてしまった様子が描かれています。
本来、患者を治療する立場である医師が、逆に患者に心を奪われてしまうという皮肉な状況を、「ミイラ取りがミイラになる」という言葉で表現しています。
類義語
- 木菟引きが木菟に引かれる(ずくひきがずくにひかれる): 当初の目的とは逆の結果になること。
- 本末転倒(ほんまつてんとう):重要なこととそうでないことを取り違えること。
- 主客転倒(しゅかくてんとう):主人と客の立場が逆転すること。
関連する心理学の概念
- 同調:周囲の人々の意見や行動に合わせること。
- 役割取得:他者の役割を演じることで、その人の考え方や行動を理解すること。
- 没入 (Immersion):ある活動や環境に深く入り込み、我を忘れること。
- ストックホルム症候群:誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に共感や好意を抱くようになる現象
(少し極端な例ですが、関連性があります)。
対義語
- 初心貫徹(しょしんかんてつ):初めに決めた志を最後まで貫き通すこと。
- 独立独歩(どくりつどっぽ):他人に頼らず、自分の力で道を切り開くこと。
- 我が道を行く(わがみちをいく):他人の意見に左右されず、自分の信じる道を進むこと。
英語表現(類似の表現)
- go for wool and come home shorn
直訳:羊毛を刈りに行って、自分が刈られて帰ってくる。
意味:利益を得ようとして、かえって損をすること。 - The biter bit
意味:人を噛む者が、逆に噛まれる。人をだます者が、だまされる。 - end up joining the enemy
意味:敵に加わることになる。 - “fall into the trap one sets for another” : 他人のために仕掛けた罠に自分がはまる
まとめ
「ミイラ取りがミイラになる」は、当初の目的を忘れ、正反対の結果を招いてしまうことへの戒めを込めたことわざです。
強い意志を持つこと、そして、常に自分の目的を意識することの重要性を教えてくれます。
このことわざは、人間の心理の面白さ、そして、時に皮肉な運命を、短い言葉で鮮やかに表現していると言えるでしょう。
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