策士策に溺れる

ことわざ
策士策に溺れる(さくしさくにおぼれる)
異形:人の振り見て我が身を正せ

10文字の言葉さ・ざ」から始まる言葉
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意味・教訓

「策士策に溺れる」は、知略や計略に長けた者ほど、自らの策を過信して思わぬ失敗を招くという皮肉な真理を表現しています。

巧妙な策略は一時的な成功をもたらすことがあっても、それに過度に依存すると自らの罠に陥ることを警告しています。
このことわざは、どんなに巧みな計略も過信は禁物であり、小賢しい知恵や浅薄な思考に頼る危険性を説いています。
真の知恵とは、策略の巧拙だけでなく、その使い方と限界を理解することにあります。

語源・由来

このことわざの明確な起源は特定されていませんが、人類の歴史を通じて蓄積された知恵と教訓から生まれた表現と考えられています。

「策士」とは謀略や計略を巧みに操る人物を指し、「溺れる」は本来水中で息ができなくなる状態を意味しますが、このことわざでは比喩的に用いられています。
自らの策略に過度に没頭するあまり、周囲の状況が見えなくなったり、環境変化に適応できなくなったりする状態を「溺れる」と表現しているのです。

歴史上の数々の出来事や物語において、優れた知略家が自らの術中にはまり、失敗した例が数多く記録されており、このことわざの普遍的真理を裏付けています。

使用上の注意点

「策士策に溺れる」は策略を用いること自体を否定するものではなく、自らの知略への過信と依存に警鐘を鳴らすことわざです。
本質的には、どんなに優れた策略も、状況を冷静に分析し柔軟に対応する姿勢があってこそ活きるということを教えています。
このことわざは、しばしば他者の失敗を皮肉ったり、能力を低く評価したりする文脈で使用されることが多いため、人間関係を損なう可能性があります。
相手を批判する意図で安易に使うのではなく、自戒の言葉として、あるいは状況を客観的に評価する際に慎重に用いるべきでしょう。

使用される場面と例文

「策士策に溺れる」は、計画や策略に頼りすぎて失敗した人に対して使われることが多いです。
ビジネス、政治、人間関係など、さまざまな場面で用いられます。

例文

  • 「彼はいつも巧妙な戦略を立てるが、今回は策士策に溺れる結果となった。」
  • 「ライバル会社を出し抜こうと、あの手この手を尽くしたが、策士策に溺れるとはこのことだ。」
  • 策士策に溺れると言うから、あまり細かい計画にこだわりすぎない方がいい。」
  • 「彼は試験でカンニングをしようとしたが、結局バレてしまった。まさに策士策に溺れるだ。」

このことわざを体現する例

このことわざを体現する例として、明智光秀と本能寺の変が挙げられます。

織田信長に仕えていた明智光秀は、非常に知略に長けた武将として知られていました。
しかし、1582年、光秀は突如として信長に謀反を起こし、本能寺の変で信長を自害に追い込みます。
一時は天下を取るかに見えましたが、その直後、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)との山崎の戦いに敗れ、光秀自身も命を落としました。

光秀は信長を討つという「策」には成功しましたが、その後の情勢を見誤り、秀吉に敗れるという結果を招きました。
「策」に溺れ、長期的な視点や、周囲の状況(他の武将たちの動向など)を見誤ったことが敗因と考えられます。

※なお、本能寺の変における明智光秀の動機や、その後の経緯については諸説あり、この解釈はその一例です。

類義語

  • 【達人・名人でも失敗する】
    • 猿も木から落ちる:その道の達人でも、時には失敗することがある。
    • 弘法も筆の誤り:書の名人である弘法大師でさえ、書き損じをすることがある。
    • 河童の川流れ:水に住む河童でさえ、川に流されることがある。
    • 上手の手から水が漏る:どんなに上手な人でも、時には失敗することがある。
  • 【策略・計略による失敗】
    • ミイラ取りがミイラになる:人を捜しに行った者が、そのまま帰ってこなくなること。転じて、人を説得に行った者が、逆に相手に説得されてしまうこと。
    • 足を掬われる:油断している隙に、不意に攻撃されて失敗すること。
  • 【油断による失敗】
    • 油断大敵:油断は失敗のもとであるから、十分に警戒しなければならない。
  • 【その他】
    • 知者は水に入りたがらず:知恵のある者は、危険を冒すようなことはしない。
    • 知恵は小出しにせよ:知恵は一度に全部出さず、少しずつ出すほうが良い。

関連する哲学の概念

  • ヒュブリス(傲慢)
    ギリシャ悲劇に頻出する概念で、人間の傲慢さが神々の怒りを買い、破滅をもたらすという考え方。
  • 慢心:
    油断大敵、に通じる概念。

対義語

  • 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる:下手なことでも、何度も試みれば、まぐれ当たりすることもある。
  • 果報は寝て待て:幸運は焦らずに待つのが良い。
  • 急がば回れ(いそがばまわれ):急いでいる時ほど、安全で確実な方法を選ぶべきである。
  • 大巧は拙なるが如し(たいこうはせつなるがごとし):真に巧みな者は、技巧を凝らしているように見えず、一見すると下手に見える。
  • 愚公山を移す(ぐこうやまをうつす):愚かなことでも、根気よく続ければ、最後には成功する。
  • 堅忍不抜(けんにんふばつ): どんな困難にも心を動かさず、じっと耐えて初志を貫くこと。
  • 大器晩成(たいきばんせい): 偉大な人物は、すぐには才能を現さず、時間をかけて大成すること。

英語表現

  • The biter is sometimes bit.
    直訳:噛みつく者が、時には噛みつかれる。
    意味:他人を攻撃する者が、逆に自分が攻撃されることがある。
  • Too clever by half.
    意味:小賢しすぎて失敗する。
  • He that deceives me once, shame on him; if he deceives me twice, shame on me.
    意味:一度騙されるのは相手が悪いが、二度騙されるのは自分が悪い。
  • Outsmart oneself
    直訳:自分を出し抜く
    意味:(策略などを用いて)出し抜こうとして失敗する。

まとめ

「策士策に溺れる」は、知略に長けた者がかえって自らの計略に溺れて失敗するという教訓を伝えることわざです。

この言葉は、どれほど優れた知恵を持っていても、過信が招く落とし穴に注意すべきことを示しています。
賢明な判断をするためには、目先の小さな勝利ではなく長期的視野を持ち、状況変化に柔軟に対応し、常に謙虚な姿勢を保つことが肝要です。
策に溺れないためには、広い視野で物事を捉え、多角的な思考を心がけ、慢心を戒め、油断なく行動することが大切なのです。

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