四面楚歌

四字熟語 故事成語
四面楚歌(しめんそか)

5文字の言葉し・じ」から始まる言葉
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意味・教訓 – 周囲が敵ばかりで孤立すること

「四面楚歌」とは、周りが敵や反対する人ばかりで味方がおらず、完全に孤立して助けもない状況を指す故事成語です。

物理的に囲まれている場合だけでなく、会議で反対されたり職場で孤立したりするなど、精神的に追い詰められた苦しい立場を表す際にも使われます。
この言葉は、孤立した状況の厳しさを示唆しています。

語源・由来 – 項羽を襲った楚の歌声

この言葉は、中国の歴史書『史記』にある「項羽本紀」の故事に由来します。

項羽こううかん劉邦りゅうほうとの戦い(垓下の戦い)で敗れ、敵軍に完全に包囲されました。
その夜、四方を囲む敵陣から故郷である楚の歌が聞こえてきたのです。

これを聞いた項羽は、「故郷の人々までもが敵についたのか」と絶望し、戦意を失いました。
この、四方から楚の歌が聞こえてくるという孤立無援の状況が「四面楚歌」の語源となりました。

使用される場面と例文

「四面楚歌」は、周囲から反対されたり、批判されたりして、味方がおらず孤立し、非常に苦しい立場に追い込まれた状況で使われます。
ビジネス上の失敗、政治的な対立、人間関係のもつれなど、様々な場面で用いられます。

例文

  • 「度重なる失敗で、彼は社内で四面楚歌の状況に陥った」
  • 「会議で提案した新企画は、反対意見ばかりで四面楚歌だった」
  • 「スキャンダルを起こした彼は、メディアからも世間からも批判され四面楚歌の状態だ」
  • 「転校したばかりで、クラスに馴染めず四面楚歌だと感じている」

文学作品に見る「四面楚歌」 – 項羽の悲劇

項羽と劉邦の楚漢戦争は、この「四面楚歌」のほかにも「国士無双」や「背水の陣」など、多くの故事成語を生み出したことで知られています。

日本の歴史小説家、司馬遼太郎の『項羽と劉邦』では、項羽が垓下で楚の歌を聞き、絶望する場面が印象的に描かれています。
自軍の兵士たちが故郷を思って涙する中、項羽が敵陣から聞こえる楚の歌に驚愕する様子は、この故事の核心をよく表しています。

夜に、漢軍の陣から、楚歌がきこえてきたのである。
(中略)
—漢は、すでにことごとく楚をえてしまったのか。なんと楚人の多いことであろう。

類義語

  • 孤立無援(こりつむえん):仲間や味方が誰もおらず、助けが全くないこと。「四面楚歌」が強調する「敵に囲まれている」状況に対し、こちらは「助けがない」状態そのものを指します。
  • 八方塞がり(はっぽうふさがり):どの方向、どの手段を試みてもうまくいかず、行き詰まってどうしようもない状態。
  • 袋の鼠(ふくろのねずみ):完全に追い詰められ、逃げ道が全くない状態のたとえ。
  • 孤軍奮闘(こぐんふんとう):味方の援助なしに、一人または少数で懸命に戦うこと。助けがない点は共通しますが、「奮闘」という前向きな行動を含意する点が異なります。

対義語

  • 順風満帆(じゅんぷうまんぱん):追い風を受けて船が帆いっぱいに風をはらんで快調に進むように、物事がすべて順調に進んでいるさま。
    ※ 周囲からの障害がなく、物事がうまく進む点で対照的です。
  • 引く手数多(ひくてあまた):多くの人から誘いや引き合いがあること。
    ※ 孤立している「四面楚歌」とは逆に、多くの人から求められている状況です。

英語での類似表現 – Surrounded by enemies

「四面楚歌」の絶望的な状況は、英語では以下のように表現できます。

  • surrounded by enemies (on all sides)
    意味:敵に(四方を)囲まれている。文字通り、物理的に、あるいは比喩的に敵対者に囲まれた状況。
    例:He felt like he was surrounded by enemies on all sides.
    (彼は四面楚歌の心境だった。)
  • isolated and without help
    意味:孤立して助けがない。状況そのものを説明する表現です。
    例:The company was isolated and without help after the scandal.
    (その会社はスキャンダル後、四面楚歌の状態に陥った。)
  • be in dire straits
    意味:非常に困難な[苦しい]状況にある。経済的な困窮や、進退きわまった状況を指すことが多い表現です。
    例:The project is in dire straits.
    (そのプロジェクトは四面楚歌の状態だ。)

使用上の注意点

「四面楚歌」は、故事が示すように、非常に深刻で絶望的な状況を表す言葉です。
そのため、日常会話で少し意見が合わない程度の状況で安易に使うと、大げさに聞こえてしまう可能性があります。
本当に孤立無援で、精神的にも物理的にも追い詰められているような、深刻な場面で使うのが適切でしょう。

また、「彼は人気者で、いつも友達に囲まれて四面楚歌だ」のように、単に「囲まれている」という意味で使うのは完全な誤りです。
あくまで「敵や反対者に囲まれている」というニュアンスが重要です。

まとめ

「四面楚歌」は、周囲を敵や反対者に囲まれ、味方がなく孤立無援の状態を表す故事成語です。
中国の楚漢戦争における項羽の悲劇的なエピソードに由来し、非常に苦しく絶望的な状況を示します。
ビジネスや人間関係など現代社会においても、孤立し追い詰められた状況の比喩として使われますが、言葉の持つ深刻さから、使う場面には注意が必要です。

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