船頭多くして船山に上る

ことわざ 慣用句
船頭多くして船山に上る(せんどうおおくしてふねやまにのぼる)
短縮形:船頭多い
異形:船頭多くして船山に登る

17文字の言葉せ・ぜ」から始まる言葉
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意味

「船頭多くして船山に上る」とは、指示を出す人が多すぎると、それぞれの意見がぶつかり合い、物事がまとまらず、とんでもない方向に進んでしまうことのたとえです。

船頭さん(船の舵を取る人)が大勢いると、それぞれが「ああしろ」「こうしろ」と勝手な指示を出します。
その結果、船はどこへ進めば良いのか分からなくなり、最終的にはありえないことですが、山に登ってしまう…!という、非常に大げさな表現で、混乱した状況を表しています。

このことわざは、組織やチームで何かをするときに、リーダーシップの大切さや、みんなで同じ方向を向いて進むことの重要性を教えてくれます。

語源・由来

このことわざは、昔の船での出来事を、大げさな比喩を使って表したものです。
船頭さんがたくさんいて、それぞれが違う指示を出したら、船はまっすぐ進むことができませんよね?
その様子を、「船が山に登る」という、ありえない状況で表現したのが始まりと言われています。

正確にいつから使われ始めたかを示す資料はありませんが、船を使った移動が当たり前だった時代、船乗りたちの間で生まれた教訓が、ことわざとして広まったと考えられます。
「船が山に登る」というのは、現実には絶対にありえないこと。しかし、それくらい「とんでもないことが起こってしまうぞ!」という強い警告の意味が込められているのです。

使用される場面と例文

「船頭多くして船山に上る」は、主に次のような場面で使われます。

  • 会議や話し合いで、たくさんの人が意見を言うけれど、まとまらないとき。
  • チームや組織で、リーダーが複数いたり、指示がバラバラだったりして、混乱しているとき。
  • 責任の所在があいまいで、誰が何を決めるのか、はっきりしていないとき。

例文

  • 「今回のプロジェクト、みんな好き勝手に意見を言うだけで、全然話が進まないね…。船頭多くして船山に上るって感じだよ。」
  • 「部長と課長で言っていることが違う!現場は混乱するばかり…。これじゃ、船頭多くして船山に登る結果になるぞ。」
  • 「新しい企画、誰がリーダーか決めておかないと、船頭多くして船山に上ることになるんじゃないかな?」
  • 「AさんもBさんもリーダーシップを主張して譲らない。船頭多くして船山に上るとは、このことだ…。」

文学作品等での使用例

夏目漱石の小説『坊っちゃん』の中で、主人公の坊っちゃんが、教員たちの派閥争いを揶揄する場面で、このことわざが使われています。

「全く船頭多くして船山に上ると云う景色だ。」

ここでは、教員たちがそれぞれの意見を主張し、まとまりがない様子を、坊っちゃんが皮肉を込めて表現しています。

注意! 避けるべき使い方

誤用例

  • 「人がたくさん集まって、船頭多くして船山に上る状態だ」(✕ 誤用)
    ※ 人が多いだけでは、このことわざは使いません。「指示する人が多すぎて混乱している」状況で使います。
  • 「少数精鋭でやろう!船頭多くして船山に上る、だからね!」(✕ 不適切)
    ※ 「少数精鋭」は、人数が少ないことのメリットを述べているので、ことわざの本来の意味と矛盾します。

類義語

  • 衆議難決(しゅうぎなんけつ):多くの人で議論すると、かえって意見がまとまらず、結論が出しにくいこと。
  • 多岐亡羊(たきぼうよう):進むべき道が多すぎて、どっちに進めばいいか迷ってしまい、結局、羊を見失ってしまうこと。転じて、方針が多すぎて、何を選べばいいか迷うこと。
  • 虻蜂取らず(あぶはちとらず):虻も蜂も両方捕まえようとして、結局どちらも逃してしまうこと。欲張りすぎて、どちらも手に入らないことのたとえ。
  • 群盲象を評す(ぐんもうぞうをひょうす):大勢の盲人が、それぞれ象の一部だけを触って、勝手なことを言うこと。一部の情報だけで、全体を判断することのたとえ。
  • 二君に仕えず(にくんにつかえず):二人の主君に同時に忠誠を尽くすことはできない、という意味。転じて、複数の人に指示を受けることの難しさを表す。

関連する心理学の概念

  • 社会的ジレンマ: 個人個人が自分の利益を優先して行動すると、結果的に全体の利益が損なわれてしまう状況のこと。「船頭多くして船山に上る」は、まさにこの社会的ジレンマの一例と言えるでしょう。

対義語:反対の行動や考え方

  • 独断専行(どくだんせんこう):たった一人のリーダーが、自分の判断だけで物事を決めて、実行すること。
  • 指揮一貫(しきいっかん):最初から最後まで、一人のリーダーが一つの考え方で指示を出し続けること。
  • 画一行動(かくいつこうどう):みんなが同じ一つのやり方で行動すること。
  • 統一指揮(とういつしき):一人のリーダーが全体をまとめ、指示を出すこと。
  • 鶴の一声(つるのひとこえ):偉い人や権力のある人の一言で、全てが決まってしまうこと。

使用上の注意点

このことわざは、「指示する人が多すぎる」ことが問題である、という点を強調しています。単に人数が多いことを批判しているのではありません。「リーダーがたくさんいて、それぞれが違うことを言うから、うまくいかないんだ!」という状況で使いましょう。

また、ブレインストーミングのように、たくさんの意見を出し合うことが良い結果を生む場合もあります。いつでも「船頭多くして船山に上る」が悪いわけではない、ということも覚えておきましょう。

英語表現(類似の表現)

Too many cooks spoil the broth.

直訳:料理人が多すぎると、スープの味がダメになる。
意味:日本語のことわざとほぼ同じ。「指示する人が多すぎると、物事がうまくいかない」という意味です。

例文:
We need one project manager, not three. Too many cooks spoil the broth.
(プロジェクトマネージャーは3人もいらない。1人で十分。船頭多くして船山に上る、って言うでしょ。)

Too many chiefs and not enough Indians.

直訳:酋長(チーフ)ばかり多くて、インディアン(実際に働く人)が足りない。
意味:指示する人ばかりで、実際に作業をする人が足りない、という状況を表します。

例文:
This team is a mess. There are too many chiefs and not enough Indians.
(このチームはめちゃくちゃだ。船頭多くして船山に上る、だよ。)

A ship can’t have two captains.

直訳:一隻の船に二人の船長は置けない。
意味:主導権を握る人間は一人でないといけない。

例文:
We have to decide. A ship can’t have two captains.
(我々は決めなければならない。船頭多くして船山に上る、だ。)

まとめ

「船頭多くして船山に上る」は、指示を出す人が多すぎて、物事がとんでもない方向に進んでしまうことを表すことわざです。
このことわざから学べる最も重要な教訓は、組織やチームで何かを成し遂げるためには、誰か一人がリーダーシップを取り、みんなで協力して同じ方向へ進むことが大切だということです。

短縮形:
表記ゆれ:

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