意味・教訓
「朱に交われば赤くなる」とは、人は、周りの環境や付き合う人によって、良くも悪くも影響を受ける、という意味のことわざです。
朱色の染料に近づけば、自然と赤く染まるように、人もまた、交際する相手の性質や考え方に染まっていくということを表しています。
良い影響、悪い影響のどちらに対しても使われますが、特に悪い影響について言及されることが多いです。
語源・由来
このことわざは、中国の西晋の時代(265年~316年)の学者・政治家である傅玄(ふげん)の著書『太子少傅箴(たいししょうふのしん)』が出典とされています。
『太子少傅箴』は、皇太子の教育係(少傅)であった傅玄が、皇太子を戒め、教え導くために書いたものです。
その中に、次のような一節があります。
「故近朱者赤、近墨者黒」(故に朱に近づく者は赤く、墨に近づく者は黒し)
これは、
「朱(朱色の絵の具や染料)に近づけば赤くなり、墨(すみ)に近づけば黒くなるように、人は付き合う相手によって影響を受ける。だから、どんな人に近づくか、付き合うかということは、とても大切なことであり、慎重に選ばなければならない。」
という意味です。
この言葉が元になり、「朱に交われば赤くなる」ということわざが生まれ、人付き合いの重要性を示す教訓として、広く使われるようになりました。
使用される場面と例文
「朱に交われば赤くなる」は、主に以下のような場面で使われます。
- 友人関係や環境が、人に与える影響について話す時。
- 悪い仲間との付き合いを戒める時。
- 良い環境に身を置くことの重要性を説く時。
例文
- 「彼は不良グループと付き合うようになってから、すっかり変わってしまった。朱に交われば赤くなる、というけれど、本当だね。」
- 「彼女は、優秀な友人に囲まれて、勉強への意識が高まったようだ。朱に交われば赤くなる、の良い例だ。」
- 「子供の教育には、良い環境が大切だ。朱に交われば赤くなる、と言うからね。」
- 「新しい職場は、向上心のある人ばかりで刺激になる。朱に交われば赤くなる、で、自分も成長できそうだ。」
- 「悪口ばかり言う人と一緒にいると、自分も嫌な人間になってしまいそう。朱に交われば赤くなる、から気をつけないと。」
文学作品での使用例
人は環境の動物、朱に交われば赤くなると云う譬もある。
島崎藤村『破戒』
これは、環境が人に与える影響の大きさを述べる一節です。
類義語
- 水は方円の器に従う(みずはほうえんのうつわにしたがう):水は、四角い器に入れれば四角く、丸い器に入れれば丸くなる。人は環境によって、良くも悪くも変わるという意味。
(良い環境に身を置けば、自然と良い方向に導かれるという意味合いも含む) - 近墨必緇(きんぼくひっし):墨に近づけば必ず黒くなる。悪い仲間と付き合えば、必ず悪に染まるという意味。
- 蓬(よもぎ)も麻中に生ずれば扶(たす)けずして直し(よもぎもまちゅうにしょうずればたすけずしてなおし): 蓬のような曲がりやすいものでも、まっすぐな性質を持つ麻の中に入って育てば、支えがなくてもまっすぐに伸びる、という意味。
関連する心理学の概念
- 同調圧力(どうちょうあつりょく):周囲の人々と同じ行動を取るように促す無言の圧力。
- 集団心理(しゅうだんしんり):集団の中にいると、個人の判断や行動が変化する現象。
- モデリング:他者の行動を観察し、模倣すること。
- ミラーニューロン: 他者の行動を見て、自分も同じ行動をしているかのように感じる神経細胞。
対義語
「朱に交われば赤くなる」の対義語は、周囲の影響を受けない、自分の信念を貫く、といった意味合いの言葉になります。
- 孤高を保つ(ここうをたもつ):周囲に流されず、自分の信念を貫くこと。
- 我が道を行く(わがみちをいく):他人に左右されず、自分の信じる道を進むこと。
- 確乎不抜(かっこふばつ):しっかりとしていて、動揺しないこと。
英語表現(類似の表現)
- You are known by the company you keep.
直訳:人は付き合う仲間で判断される。
意味:人は、付き合う人によって、その人となりが判断される。 - One rotten apple spoils the whole barrel.
直訳:一つの腐ったリンゴが樽全体を腐らせる。
意味:一人の悪人が、周りの人々に悪影響を与える。(「朱に交われば赤くなる」は必ずしも一人の悪人を指すわけではないため、厳密には異なる) - If you lie down with dogs, you will get up with fleas.
直訳:犬と一緒に寝ると、ノミと一緒に起きることになる
意味:悪い人たちと関わると悪い影響を受ける - A man is known by his friends
意味:人はその友人でわかる。
使用上の注意点
「朱に交われば赤くなる」は、必ずしも「悪い影響」だけを指すわけではありません。
良い影響を受ける場合にも使われます。
また、環境や人付き合いは重要ですが、最終的にどうなるかは、その人自身の意志や努力によるところも大きいということを忘れてはいけません。
まとめ
「朱に交われば赤くなる」は、人は周りの環境や付き合う人によって、良くも悪くも影響を受けるという意味のことわざです。
中国の古典に由来し、人付き合いの重要性を示す教訓として、広く使われています。
このことわざを「環境のせいにする言い訳」として使うのではなく、「良い環境を選ぶ努力」や「悪い影響に負けない意志」を持つための教訓として捉えることが重要です。
自分自身の成長のために、周りの環境を意識し、良い人間関係を築いていくことが大切です。
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