意味・教訓
「出る杭は打たれる」とは、才能や能力があり目立つ人は、他人から妬まれたり、邪魔されたり、非難されたりしやすい、という意味のことわざです。
集団の中で突出した存在は、周囲からの反感を買いやすく、攻撃の対象になりやすいという状況を表しています。
能力があり目立つことは、必ずしも良いことばかりではないという教訓を含んでいます。
また、目立たないように振る舞う方が良い、という意味合いで使われることもあります。
語源・由来
「出る杭は打たれる」の「杭」は、地面に打ち込む棒のことです。
地面から出っ張っている杭は、邪魔になるので、打ち込まれて平らにされます。
この状況を、人間の社会に例えたのが、このことわざです。
集団の中で目立つ存在は、周囲から疎まれ、抑えつけられやすい、ということを表しています。
ことわざの成立時期は明確ではありませんが、日本の村社会の同調圧力を背景に生まれた言葉と考えられます。
江戸時代の文献にも用例が見られ、広く使われていたことがうかがえます。
使用される場面と例文
「出る杭は打たれる」は、主に以下のような場面で使われます。
- 組織や集団の中で、目立つ人や才能のある人が、周囲から批判されたり、妨害されたりする状況
- 新しいアイデアや提案が、保守的な人々から反対される状況
- 個性的な行動や発言が、周囲から非難される状況
例文
- 「彼は優秀だが、出る杭は打たれる、というように、上司から目をつけられている。」
- 「せっかく良いアイデアを出しても、出る杭は打たれる、と潰されてしまう。」
- 「出る杭は打たれるという社会では、個性が活かされない。」
- 「彼女は、出る杭は打たれることを恐れて、自分の意見を言えない。」
- 「出る杭は打たれると言うけれど、出る杭にならなければ、何も変わらない。」
文学作品等での使用例
■日本文学
- 夏目漱石『三四郎』:
主人公・三四郎が、東京で才能や個性を発揮する人々が批判される場面で、「出る杭は打たれる」という考え方がにじむ描写が見られます。 - 太宰治『人間失格』:
主人公・葉蔵が、人と違う考えや生き方をすることで、周囲から批判され、孤立していく様子が「出る杭は打たれる」的な状況として表現されています。 - 芥川龍之介『侏儒の言葉』:
芥川が「日本社会では個性を出すと叩かれる」という趣旨の言葉を記しており、「出る杭は打たれる」の考えが反映されています。
■海外文学
- ジョージ・オーウェル『1984年』:
体制に逆らう者が徹底的に弾圧される様子は、「出る杭は打たれる」状況と共通しています。 - フランツ・カフカ『変身』:
異質な存在(変身したグレゴール)が社会から排除される様子は、「出る杭は打たれる」状況に通じるものがあります。
類義語
- 出る釘は打たれる:「出る杭は打たれる」とほぼ同義。
関連語
- 同調圧力:少数意見を持つ人に対して、周囲の多数意見に合わせるように仕向ける、暗黙の強制力のこと。
対義語
このことわざに明確な対義語はありませんが、「個性を尊重すること」や、「才能を伸ばすこと」を表す言葉が、対照的な意味合いを持つと言えるでしょう。
- 出る杭を伸ばす(でるくいをのばす):才能のある人をさらに伸ばすこと。
- 個性尊重:一人ひとりの違いを認め、大切にすること。
- 才能開花:才能が伸びて、花開くこと。
英語表現(類似の表現)
- The nail that sticks out gets hammered down.
直訳:突き出た釘は打ち付けられる。
意味:「出る杭は打たれる」に相当する、英語のことわざです。 - Tall poppy syndrome.
直訳:背の高いケシ花症候群
意味:(背の高いケシは切られることから) 目立つ人、成功した人、平均より上にいる人を妬み、引きずり下ろそうとする社会的風潮。オーストラリアやニュージーランドで使われる表現。 - Tall trees catch much wind.
直訳:高い木は多くの風を受ける。
意味:高い木は風をたくさん受けるように、目立つ人は、それだけ風当たりも強くなる。
使用上の注意点
「出る杭は打たれる」は、日本の社会における同調圧力を表す言葉として使われることが多いです。
このことわざを目立つことや個性を発揮することを否定する意味で使うのは適切ではありません。
また、出る杭にならないように、あえて才能を隠したり、目立たないように振る舞ったりすることを勧めるのも、好ましくありません。
単に失敗した人に対して、「出る杭は打たれる」と言うのは不適切です。(目立っていたわけではないので)
まとめ
「出る杭は打たれる」は、才能や能力があり目立つ人は、他人から妬まれたり、邪魔されたり、非難されたりしやすい、という意味のことわざです。
日本の社会における同調圧力を表す言葉として、広く使われています。
しかし、このことわざに縛られず、個性を発揮し、才能を伸ばしていくことがより良い社会を作るためには必要です。
「出る杭」になることを恐れず、自分の信じる道を進むことも時には大切です。
そして、周囲の人々も「出る杭」を打つのではなく、その才能を認め伸ばしていくような寛容さを持つことが求められます。
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