寄らば大樹の陰

ことわざ
寄らば大樹の陰(よらばたいじゅのかげ)
短縮形:寄らば大樹

10文字の言葉」から始まる言葉
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意味 – 頼るなら有力な者を

「寄らば大樹の陰」とは、どうせ頼ったり身を寄せたりするならば、勢力があり頼りになる人を選ぶのが安全で得策である、という意味のことわざです。

大きな木の下は、雨や風をしのぎやすく、強い日差しも遮ってくれることから、安全で安心できる場所であるという例えに基づいています。

このことわざは、組織や人間関係において、力のある人に頼ることのメリットを示唆する一方で、それによる自主性や独立心の欠如といった側面も考えさせる、深い含みを持っています。

語源 – 大樹が象徴するもの

このことわざの直接的な出典は、残念ながら明らかになっていません。

しかし、「大樹」が古くから権力者や勢力の大きな人物・組織の象徴として用いられてきたことは、多くの文献で見られます。

例えば、中国の歴史書『史記』には、

桃李とうり言わざれども下自しもおのずからみちを成す」

という有名な一節があります。
これは、桃やすももが何も言わなくても、その美しい花や美味しい実を求めて人が集まり、自然と下に道ができるように、徳のある人のもとには自然と人々が集まってくる、という意味です。

「寄らば大樹の陰」は、こうした「力あるものの影響力」や「人が集まる様子」を、より現実的な処世の観点から捉えたことわざと言えるでしょう。

使われる場面と例文 – 処世術としての選択

「寄らば大樹の陰」は、身の安全や利益を考えて、頼るべき相手を選ぶ際の考え方として、様々な場面で使われます。

  • 就職活動や転職活動などで、安定性や影響力を重視して企業を選ぶ際の指針として。
  • 組織内での立場を有利にするため、力のある派閥や人物との関係を築く場面で。
  • 政治の世界などで、影響力のある人物との連携を図る際に。
  • 結婚相手を選ぶ際に、相手の社会的地位や経済力を考慮する考え方として。

例文

  • 「就職するなら、寄らば大樹の陰で、大手企業の方が安心だと考えた。」
  • 「社内政治を考えると、寄らば大樹の陰。力のある派閥に属するのが出世の近道かもしれない。」
  • 「彼は寄らば大樹の陰の発想で有力な政治家に取り入り、今の地位を築いたと言われている。」
  • 「彼女の結婚観は、寄らば大樹の陰という考えに基づいているようだ。」

文学作品での使用例

森鴎外の小説『舞姫』には、主人公の太田豊太郎がドイツ留学中の心境を表す場面で、このことわざが効果的に用いられています。

「余は模糊(もこ)たる功名の念と、検束に慣れたる勉強力とを持ちて、忽(たちま)ちこの欧州大都の人の海に漂ひ出でたり。寄らば大樹の蔭とだに頼むべき人もなし。」

ここでは、頼るべき「大樹」のような存在がいない、異国の地での孤独感や心細さが表現されています。

類義語 – 似た意味を持つ言葉

  • 長い物には巻かれろ:権力や勢力の強い者には、逆らわずに従っている方が得策である、という意味。処世術としての側面がより強調されます。

関連語 – 周辺の言葉

  • 虎の威を借る狐:自分自身には力がないのに、有力者の権威を笠に着て威張る小者のたとえ。「寄らば大樹の陰」とは異なり、否定的なニュアンスで使われます。
  • 提灯持ち(ちょうちんもち):有力者にお世辞を言ったり、おだてたりして機嫌を取る人のこと。これも、主体性のない迎合的な態度を揶揄する言葉です。

対義語 – 自立や孤立を示す言葉

  • 独立独歩(どくりつどっぽ):他人に頼らず、自分の力だけで信じる道を進むこと。
  • 一匹狼(いっぴきおおかみ):組織や集団に属さず、単独で行動することを好む人。孤高のイメージを持つこともあります。
  • 出る杭は打たれる(でるくいはうたれる):才能が目立ったり、差し出がましいことをしたりする人は、他人から憎まれたり妨害されたりしやすいというたとえ。
    ※ 大樹に頼らず独自路線を行くことのリスクを示唆する文脈で、対比的に用いられることもあります。

英語での関連表現 – 処世に関する英語

「寄らば大樹の陰」と完全に一致する英語のことわざはありませんが、処世術や力関係に関連する表現はいくつかあります。

  • If you can’t beat them, join them.
    直訳:もし彼らに勝てないなら、彼らに加われ。
    意味:抵抗できない相手であれば、むしろ仲間になってしまった方が良い、という考え方。「長い物には巻かれろ」に近いニュアンスです。
  • Better be the head of a dog than the tail of a lion.
    直訳:ライオンの尻尾であるよりは、犬の頭である方が良い。
    意味:大きな組織の末端にいるよりも、小さな組織でもトップに立つ方が良いという考え方。これは「寄らば大樹の陰」とは対照的な価値観を示すことわざです。
    (類似のことわざに “Better to be a big fish in a small pond than a small fish in a big pond.” があります。)

使用上の注意点 – 考慮すべきリスク

「寄らば大樹の陰」は、処世術の一つとして有効な場面もありますが、常に肯定的な選択肢とは限りません。
この考え方を採用する際には、以下のようなリスクも考慮する必要があります。

  • 主体性の喪失: 大樹の意向に従うことで、自分の意見や判断を抑え、主体性を失ってしまう可能性があります。
  • 成長機会の損失: 保護される環境に安住することで、自ら困難に立ち向かい、成長する機会を逃すかもしれません。
  • 共倒れのリスク: 頼っている「大樹」がもし倒れたり、力を失ったりした場合、その影響をもろに受け、共に困難な状況に陥る危険性があります。

このことわざが示す考え方を用いるかどうかは、そのメリットとデメリットを十分に理解した上で、個々の状況に応じて慎重に判断することが求められます。

まとめ

「寄らば大樹の陰」は、力のある人や組織に身を寄せることで、安全や安定を得るという処世術を表すことわざです。
大きな木の陰が雨風をしのぐように、強い存在は保護や安心をもたらしてくれる可能性があります。

しかし、その一方で、大樹に頼りすぎることで主体性を失ったり、成長が停滞したりするリスクも伴います。
さらに、大樹が倒れたときには共倒れする危険性も考えられるでしょう。

このことわざは、生き方の選択肢の一つを示唆するものですが、最善の道は人それぞれ異なります。
安易に「大樹」に頼るのではなく、「独立独歩」の道も視野に入れ、自分にとって最適な進路を主体的に考えることが大切です。

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