意味
「李下に冠を正さず、瓜田に履を納れず」とは、人に疑われるような行動はしない方がいい、という教えです。
たとえ話で、
- 「李下(りか)」 とは、スモモの木の下のこと。ここで、落ちた冠を直そうと手を伸ばすと…スモモを盗もうとしていると間違われるかもしれません。
- 「瓜田(かでん)」 とは、瓜(うり)の畑のこと。ここで、脱げた履物(くつ)を履き直そうとかがみこむと…瓜を盗もうとしていると疑われるかもしれません。
つまり、たとえ盗むつもりがなくても、周りから見て「怪しい」と思われる行動は、最初からしない方が良い、という意味になります。
語源・由来
このことわざは、中国の古い詩(古楽府(がふ)の『君子行』)にある言葉が元になっています。
その一節には、
「君子防未然 不處嫌疑間 瓜田不納履 李下不正冠
(君子は未然を防ぎ、嫌疑の間に処らず。瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず)」
とあります。
- 「君子」 とは、立派な人、徳のある人のこと。
- 「未然を防ぎ」 とは、問題が起こる前に、あらかじめ防ぐこと。
- 「嫌疑の間」 とは、疑われるような状況のこと。
つまり、「立派な人は、問題が起こる前から気をつけていて、そもそも人に疑われるような状況にはならない。
瓜畑で履物を履き直したり、スモモの木の下で冠を直したりするような、誤解を招く行動はしないものだ」という意味です。
この言葉が日本に伝わり、ことわざとして広く使われるようになりました。
使用される場面と例文
「李下に冠を正さず、瓜田に履を納れず」は、主に、誤解を招くような行動を慎むように注意する際に使われます。
また、自分自身を戒める言葉としても用いられます。
ビジネスシーンや公の場など、特に注意が必要な場面で使われることが多いです。
例文
- 「上司と二人きりで飲みに行くのは、李下に冠を正さず、瓜田に履を納れずだ。誤解されるようなことは避けた方がいい。」
- 「政治家は、李下に冠を正さず、瓜田に履を納れずの精神で、常に身を慎むべきだ。」
- 「李下に冠を正さず、瓜田に履を納れずと言うから、あの人の家にはあまり近づかないようにしている。」
- 「私は潔白だが、李下に冠を正さず、瓜田に履を納れずということもある。誤解を招かないように、行動には気をつけよう。」
文学作品等での使用例
このことわざは、日本の古典文学にも登場します。
- 『太平記』には、「李下に冠を正さず、瓜田に履をいれずとこそ、賢人も此時を誡め給へ」という一節があります。
類義語
- 瓜田李下(かでんりか):人に疑われるような状況のこと。この四字熟語は、ことわざの前半部分と後半部分を組み合わせたもの。
- 瓜田の履、李下の冠(かでんのはき、りかのかんむり):「李下に冠を正さず、瓜田に履を納れず」とほぼ同じ意味。
- 嫌疑を避ける(けんぎをさける):疑わしい行動、疑いをかけられるような状況を避ける。
関連する概念
- 性善説:人の本性は善であるという考え方。(孟子)
このことわざは、性善説の立場から、「疑われるようなことをしなければ、疑われることはない」という考え方を示しているとも解釈できる。
しかし、同時に性悪説の「疑われるようなことをしてはいけない」という側面も持つ。
対義語
このことわざに明確な対義語はありませんが、以下のような考え方は対照的と言えるでしょう。
- 我が道を行く:他人の目を気にせず、自分の信じる道を進むこと。
- 信あれば通ず(しんあればつうず):自分に信念があれば、人に疑われても、いつかは理解されるという考え方。
- 知らぬが仏(しらぬがほとけ):疑われていることに気づかなければ、問題ない。
使用上の注意点
「李下に冠を正さず、瓜田に履を納れず」は、誤解を避けるための教えですが、過度に意識しすぎると、行動が制限されたり、他人を信用できなくなったりする可能性があります。
このことわざを使う際は、「疑われるような行動は慎むべきだが、常に他人から疑われていると考える必要はない」というバランス感覚を持つことが大切です。
潔白であれば、堂々としていれば良い場合もあります。
英語表現(類似の表現)
Avoid the appearance of evil.
直訳:悪の兆候を避けよ。
意味:悪いことをしているように見えること、疑わしい行動を避けるべきだ、という意味。
「李下に冠を正さず、瓜田に履を納れず」に最も近い英語表現。
例文:
Even if you’re innocent, you should avoid the appearance of evil.
(たとえ無実であっても、悪の兆候は避けるべきだ。)
Caesar’s wife must be above suspicion.
直訳:カエサルの妻は、疑いを超越していなければならない。
意味:地位のある人の妻(や、それに準ずる人)は、少しの疑いも持たれてはならない、という意味。
古代ローマの政治家カエサルの言葉に由来。
例文:
As a public figure, he knows that his wife, like Caesar’s wife, must be above suspicion.
(公人として、彼は、自分の妻がカエサルの妻のように、疑いを超越していなければならないことを知っている。)
Don’t do anything you wouldn’t want to be caught doing.
直訳:捕まりたくないようなことはするな。
より一般的な言い回しで、「人に後ろ指を指されるようなことはするな。」という意味。
例文:
My grandmother always told me, “Don’t do anything you wouldn’t want to be caught doing.”
(祖母はいつも、「人に後ろ指をさされるようなことはするな」と言っていた。)
まとめ
「李下に冠を正さず、瓜田に履を納れず」は、人に疑われるような行動は慎むべきだという教えです。
スモモの木の下で冠を直したり、瓜畑で履物を履き直したりする、ささいな行動でも、他人からは盗みを働いているように見えるかもしれない、という具体的な例えを通して、誤解を招く行動の危険性を説いています。
このことわざは、社会生活を送る上で、周囲の人々との信頼関係を築き、円滑なコミュニケーションを保つために、常に心がけるべき重要な教訓と言えるでしょう。
しかし、過度に疑心暗鬼になるのではなく、潔白であれば堂々としていることも時には大切です。
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