意味
「九牛の一毛」とは、たくさんの牛の中の一本の毛という意味から転じて、取るに足りないわずかなもの、価値のないもの、取るに足らない存在のたとえです。
多くのものの中の、ごくわずかな部分を指して使われます。
語源・由来
この言葉は、中国の歴史書『史記』の「報任少卿書」を出典とする故事成語です。
前漢の武帝の時代、将軍の李陵(りりょう)は、匈奴との戦いで敗れて捕虜となりました。
李陵の親友であった司馬遷(しばせん)は、李陵を弁護しましたが、武帝の怒りを買い、宮刑(去勢刑)に処せられてしまいます。
司馬遷は、友人の任安(じんあん)に宛てた手紙の中で、自分の境遇を嘆き、
「自分の死など、九牛の一毛に過ぎない(たくさんの牛の中の一本の毛が抜けた程度のことで、誰も気に留めない)」と書きました。
「僕(私)の法(死刑)に伏するは、九牛の一毛を失うがごとし」
(現代語訳)「私が死刑になったところで、それは多くの牛の中の一本の毛がなくなるようなものだ(誰も気にしない)」
この手紙の中の言葉が、「九牛の一毛」という故事成語として広まりました。
使用される場面と例文
「九牛の一毛」は、主に以下のような場面で使われます。
- 全体から見ると、ごくわずかな部分を指すとき
- 価値のないもの、取るに足りないものを表すとき
- 自分の貢献や存在を謙遜して言うとき
例文
- 「広大な宇宙から見れば、地球は九牛の一毛に過ぎない。」
- 「大富豪にとって、100万円は九牛の一毛だろう。」
- 「私の力など、このプロジェクトの成功にとっては九牛の一毛です。」
- 「彼の膨大な蔵書からすれば、私が読んだ本は九牛の一毛だ。」
類義語
- 大海の一滴(たいかいのいってき):広大な海の中の一滴の水。ごくわずかなもののたとえ。
- 雀の涙(すずめのなみだ):ごくわずかな量、ほんの少し。
- 微々たる(びびたる):非常にわずかであるさま。
- 微少(びしょう):ごくわずかであること。
- 些少(さしょう):ほんの少し。わずか。
対義語
- 巨万(きょまん):非常に大きな数量、金額。
- 無数(むすう):数えきれないほど多いこと。
- 膨大(ぼうだい):非常に多いこと。
- 大海(たいかい)
- 多数(たすう)
英語表現(類似の表現)
a drop in the bucket/ocean
直訳:バケツ(大洋)の中の一滴
意味:ごくわずかなもの、大海の一滴
例文:
The money I gave him was just a drop in the bucket.
(私が彼にあげたお金は、ほんのわずかでしかなかった。)
a grain of sand
直訳:砂の一粒
意味:ごくわずかなもの、取るに足りないもの
例文:
My problems are just a grain of sand compared to yours.
(私の悩みは、あなたの悩みに比べれば、ほんのちっぽけなものです。)
まとめ
「九牛の一毛」とは、多くの牛の中の一本の毛という意味から、取るに足らないわずかなもののたとえとして使われる故事成語です。
中国の歴史家、司馬遷が友人に宛てた手紙の中の言葉に由来します。
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