燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや

ことわざ 故事成語
燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや(えんじゃくいずくんぞこうこくのこころざしをしらんや)
短縮形:燕雀鴻鵠

25文字の言葉」から始まる言葉
スポンサーリンク

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の意味

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」とは、小さな器量の者には、大きな人物の考えや志は理解できない、という意味のことわざです。
凡人には大人物の考えが理解できないことのたとえとしても使われます。

  •  燕雀(えんじゃく):ツバメやスズメのような小さな鳥のこと。
  •  鴻鵠(こうこく):ハクチョウやクグイ(白鳥の別名)のような大きな鳥のこと。

小さな鳥には、大きな鳥が空高く飛翔する目的や、その壮大な志を理解できない、という状況を比喩的に表しています。

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の語源・由来 – 陳勝の嘆き

この言葉の出典は、中国の歴史書『史記』の中の「陳渉世家(ちんしょうせいか)」です。

物語の主人公は、秦末の農民反乱指導者となる陳勝(ちんしょう)です。
彼がまだ若く貧しい雇われ農民だった頃、将来の志を仲間たちに語ったところ、「お前のような者にできるはずがない」と笑われてしまいました。

この時、陳勝は嘆いて言いました。
「嗟乎、燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」と。

訳:(ああ、ツバメやスズメのような小物に、どうしてオオハクチョウのような大きな鳥の志がわかろうか、いやわかるはずがない)

これは、「君たちのような小さな考えの者には、私のような大きな志は理解できないだろう」という意味で、この陳勝の言葉が故事成語として伝わっています。

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の使用される場面と例文

この故事成語は、自分の抱いている大きな目標や理想が、周囲の人々になかなか理解してもらえない時や、他人のスケールの大きな計画や行動に対して、凡人には計り知れないものだと評するような場面で使われます。

ただし、言葉の成り立ちから分かるように、相手を「燕雀(小人物)」、自分(または評価する対象)を「鴻鵠(大人物)」と見なすニュアンスを含むため、使い方には注意が必要です。

例文

  • 「君たちには理解できないだろうが、私には世界を変えるという夢がある。燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんやだ。」
  • 「社長の新しい事業計画は、社員には理解されなかった。まさに燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、だ。」
  • 「彼のような凡人に、私の芸術が理解できるはずがない。燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、ということだ。」
  • 「あいつらはいつも目先のことしか考えていない。燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、だな。」

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の類義語

  • 竜は雲を、虎は風を(りゅうはくもを、とらはかぜを):優れた人物は、それにふさわしい活躍の場を得て、初めて実力を発揮できるということ。
  • 小人閑居して不善を為す(しょうじんかんきょしてふぜんをなす):つまらない人間は暇だとろくなことをしない。

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の関連語

  • 大器晩成:大人物は、大成するのが遅いということ。
  • 陳勝(ちんしょう):この故事成語の元となった言葉を発した人物。秦末の農民反乱指導者。
  • 史記(しき):この故事が記されている中国の歴史書。司馬遷著。

対義語

この言葉に明確な対義語はありませんが、以下のような表現が対照的な意味合いを持ちます。

  • 井の中の蛙大海を知らず: 自分の狭い知識や経験にとらわれて、広い世界があることを知らないこと。
  • 器の小さい人間:度量や才能が乏しい人。

英語表現

  • How can a sparrow know the ambition of a swan?
    直訳:「スズメにどうして白鳥の野望が分かろうか?」
    意味:元の故事の比喩に近く、意味合いが伝わりやすい表現。
  • Small minds cannot comprehend great spirits.
    意味:小さな精神(考え)は、偉大な精神を理解することはできない。意訳だが、小人物には大人物の考えが分からない、という核心を捉えている。
  • What does the swallow know of the aims of the stork?
    意味:「ツバメにコウノトリの目的が分かるものか?」これも比喩を用いた表現。

使用上の注意点 – 傲慢に聞こえるリスク

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」は、非常に強い響きを持つ言葉です。
この言葉を使うとき、多くの場合、無意識のうちに 自分や評価したい人物を「鴻鵠(大人物)」、そして 話の相手や周囲の人々を「燕雀(小人物)」 と位置付けてしまうことになります。

そのため、相手を見下している、あるいは非常に傲慢であると受け取られる可能性が極めて高い表現です。
たとえ自分の志が理解されない状況への嘆きとして使ったとしても、相手に強い不快感を与えかねません。

この言葉を安易に使うことは避け、特に直接的な会話や、他者を批判するような文脈で使うのは控えるべきでしょう。
故事成語として知識を披露する場面や、歴史的な文脈を語る中で引用する程度にとどめるのが賢明かもしれません。

まとめ – 「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」の教訓と現代での使い方

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」は、中国の歴史書『史記』に記された陳勝の故事に由来する言葉です。
それは、大きな志を持つ人物の考えは、平凡な人々にはなかなか理解されないものだ、という現実を示唆しています。

この言葉は、高い目標へ向かう強い意志や、世の常識にとらわれないスケールの大きさを感じさせます。
しかし、その一方で、他者との比較の上に成り立ち、「小人物には理解できない」というニュアンスを強く含みます。

現代社会でこの言葉を使う際には、その強い響きと、相手を見下す印象を与えかねない点に十分な注意が必要です。
知識として知っておくことは有益ですが、実際のコミュニケーションで用いる場面は慎重に選ぶべきでしょう。
言葉の背景にある歴史と、それが持つ現代的な意味合いの両方を理解しておくことが大切です。

コメント