二兎を追う者は一兎をも得ず

ことわざ
二兎を追う者は一兎をも得ず(にとをおうものはいっとをもえず)
異形:二兎追う者は一兎も得ず/二兎を追う者は一兎も得ず

15文字の言葉」から始まる言葉
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二兎を追う者は一兎をも得ず 【個別】ことわざ・慣用句・四字熟語

意味・教訓 – 集中と選択の大切さ

「二兎を追う者は一兎をも得ず」とは、同時に二つの目標や対象を追い求めようとすると、結局どちらも達成できずに終わってしまう、という意味のことわざです。

欲張って複数のことを同時に成し遂げようとすると、力が分散してしまい、どちらも中途半端な結果に終わってしまう。
このことわざは、そうした状況を、二匹の兎を同時に捕まえようとしてどちらにも逃げられてしまう様子にたとえています。

ここから、一つの物事に集中して取り組むことの重要性や、目標を絞ることの大切さ、そして欲張りすぎることへの戒めといった教訓を読み取ることができます。

語源・由来 – 経験から生まれた知恵

「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざの、特定の起源や出典は明確にはわかっていません。

しかし、二匹の兎を同時に追いかけても、結局どちらも捕まえられない、という状況は、昔から多くの人が経験的に理解していたことでしょう。
このことわざは、そうした人々の生活の中での経験則や知恵から、自然に生まれ、語り継がれてきたものと考えられます。

一説には、西洋のことわざ、特に古代ローマの学者エラスムスが編纂した『アダギア (Adagia)』に見られるラテン語の格言に由来するという考え方もありますが、定かではありません。
類似した発想の表現は、世界中の様々な言語に見られます。

使用される場面と例文 – 欲張りは失敗のもと

このことわざは、誰かが同時に複数の目標を追いかけて、結果的にどちらも中途半端になりそうな状況や、欲張った結果、失敗してしまった状況などで使われます。
戒めや忠告、あるいは自嘲的な意味合いで用いられることもあります。

例文

  • 「彼は同時に二つのプロジェクトリーダーをこなそうとしたが、結局どちらも遅延し、まさに二兎を追う者は一兎をも得ずの状態だ。」
  • 「資格試験の勉強とアルバイトを無理に両立しようとして、どちらも疎かになってしまった。二兎を追う者は一兎をも得ずとはこのことだ。」
  • 「欲張ってあれもこれもと手を出すと、結局何も身につかないよ。二兎を追う者は一兎をも得ず、だ。」

注意すべき点

基本的に誤用されにくいことわざですが、注意点もあります。
例えば、二つの目標に対し、時間配分をしっかり行い、計画的に取り組んでいる人に対してこのことわざを使うのは適切ではありません。
あくまで、無理に両立しようとして、どちらも達成できそうにない状況を指して使う言葉です。

文学作品等での使用例 – イソップ寓話との共通点

このことわざ自体が物語などで直接引用されることもありますが、「欲張った結果、全てを失う」というテーマは、古今東西の様々な物語で描かれています。

例えば、有名なイソップ寓話の一つ「欲ばりな犬」の話が挙げられます。
この物語は、欲張って二つのものを得ようとした結果、元々持っていたものまで失ってしまうという、まさに「二兎を追う者は一兎をも得ず」の教訓を分かりやすく示しています。

ある犬が、肉のかたまりをくわえて橋を渡っていました。
ふと川の水面を見ると、自分と同じように肉をくわえた犬がいます(それは水面に映った自分の姿でした)。
犬は、その肉も欲しくなってしまいました。
「その肉もよこせ!」と、水面に向かって力いっぱい吠えたとたん、くわえていた大事な肉は、ぽちゃんと川の中に落ちてしまいました。
結局、犬はどちらの肉も手に入れることができませんでした。

この寓話のように、欲張りすぎることの愚かさを伝える物語は、このことわざの精神と深く通じると言えるでしょう。

類義語 – 似たような意味を持つ言葉

  • 虻蜂取らず(あぶはちとらず):虻(あぶ)も蜂(はち)も両方捕まえようとして、結局どちらにも逃げられてしまうこと。
    「二兎を追う者は一兎をも得ず」とほぼ同じ意味で使われます。
  • 欲張り貧乏(よくばりびんぼう):欲が深いために、かえって損をして貧乏になること。
    一つのことに夢中になりすぎて、より大事なものを失うことのたとえ。

対義語 – 対照的な考え方

「二兎を追う者は一兎をも得ず」に直接的な対義語となることわざは特定しにくいですが、以下のような言葉が対照的な考え方を示しています。

  • 一石二鳥(いっせきにちょう):一つの行為で二つの利益を得ること。
  • 一点集中(いってんしゅうちゅう):一つの対象や目標に、意識や力をすべて注ぐこと。
  • 選択と集中(せんたくとしゅうちゅう):複数の選択肢の中から重要なものを選び出し、そこに経営資源などを集中させること(主にビジネス用語)。

英語での類似表現 – chasing two hares

英語にも、「二兎を追う者は一兎をも得ず」と非常によく似た意味のことわざがあります。

  • If you run after two hares, you will catch neither.
    意味:二匹の兎を追いかければ、どちらも捕まえられない。
    日本語のことわざに最も近い、直接的な表現です。
  • He who hunts two hares leaves one and loses the other.
    意味:二匹の兎を狩る者は、一方を諦め、もう一方を失う。
    こちらも同様の意味合いで使われます。
  • You can’t have your cake and eat it too.
    直訳:ケーキを持ったまま、それを食べることはできない。
    意味:両方の良いところを同時に手に入れることはできない、二者択一である、といったニュアンスで使われます。
    欲張ることを戒める点で共通しますが、「二兎を追う者~」とは少し異なります。

使用上の注意点 – バランス感覚も大切

このことわざは、集中力の重要性を説くものですが、必ずしも「複数のことに取り組むこと」自体を否定するものではありません。

現代社会では、複数のタスクを効率的にこなす能力も求められます。
大切なのは、自分の能力や状況を客観的に判断し、欲張ってキャパシティを超えないようにすること。
そして、複数のことに取り組む場合でも、優先順位をつけ、計画的に進めるなど、バランス感覚を持つことです。
無計画に手を広げすぎることへの戒めとして、このことわざの教訓を心に留めておくと良いでしょう。

まとめ

「二兎を追う者は一兎をも得ず」。
これは、欲張って二つの目標を同時に追い求めると、結局どちらも手に入らないことが多い、という大切な教訓が込められたことわざです。

この分かりやすいたとえ話を通して、このことわざは「一つのことに集中すること」がいかに重要かを教えてくれます。

もちろん、これは「絶対に二つ以上のことを同時にやってはいけない」と厳しく言っているわけではありません。
大切なのは、自分の力以上に手を広げすぎたり、計画なしにあれもこれもと欲張ったりすると、失敗につながりやすい、という注意点です。

何かを成し遂げたい時、時には勇気を持って目標を一つに絞り、そこに向かって着実に努力を続けること。
この古くからの知恵は、そんな成功への近道を示してくれていると言えるでしょう。

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