意味・教訓
「人の噂も七十五日」とは、世間の人々がする噂話も、しばらくすれば忘れられてしまうという意味のことわざです。
どんなに騒がれた評判も、時間とともに人々の関心が薄れ、忘れ去られていくという、世の中の移り変わりや人の記憶の曖昧さを表しています。
良い噂も悪い噂も、永遠に続くわけではない、という教訓を含んでいます。
語源・由来
このことわざの由来には諸説あり、明確な起源は特定されていません。
一説には、人の噂話はすぐに広まるものの、飽きやすく忘れ去られやすいという、人間の心理的な傾向から生まれたと考えられています。
また、昔の暦では、七十五日が一つの区切りとなる時期であったため、そこから来たという説もあります。
江戸時代にはすでに使われていたことが文献から確認されており、当時の世相を反映した言葉として広まったと考えられます。
使用される場面と例文
「人の噂も七十五日」は、主に以下のような場面で使われます。
- 悪い噂をされて落ち込んでいる人を慰める時
- 一時的な評判に一喜一憂することの愚かさを諭す時
- 事件や不祥事などが時間とともに忘れ去られていく様子を表現する時
例文
- 「今回の騒動も、人の噂も七十五日と言うから、あまり気に病むことはないよ。」
- 「あの人の悪評も、人の噂も七十五日で、もう誰も覚えていないだろうね。」
- 「事件の時はあれだけ騒がれたのに、もうすっかり忘れ去られている。まさに人の噂も七十五日だ。」
文学作品等での使用例
太宰治の小説『人間失格』の中で、主人公が世間の噂について述べる場面で、このことわざが使われています。
世間というのは、いったい、何なのでしょう。まさか、この人たち皆なのでしょうか。そうだとすれば、世間は、ずいぶん簡単なものですね。(中略)それにしても、人の噂も七十五日と言いますから、少し辛抱すれば、みんな忘れてくれるでしょう。
この引用文からは、主人公が世間の噂に苦悩しながらも、時間が解決してくれるだろうと期待する様子が伺えます。
類義語
- 三年乞食(さんねんこじき):どんな貧乏人も三年もすれば慣れてしまうという意味で、悪い境遇も時間が経てば薄れることを表します。
- 時の薬(ときのくすり):時間が解決してくれるという意味の言葉です。
関連語
- 悪事千里を走る(あくじせんりをはしる):悪い噂はすぐに遠くまで広まるという意味のことわざで、「人の噂も七十五日」とは対照的に、噂の広がりやすさを強調しています。
関連する心理学の概念
- 忘却曲線: 人間の記憶は時間とともに薄れていくという心理学的な研究結果です。
「人の噂も七十五日」は、この忘却曲線を日常生活の知恵として表現していると言えるでしょう。
対義語
- 口に戸は立てられず(くちにとはたてられず):人の口は戸締りのように塞ぐことができないという意味で、噂が広がりやすいことを表します。「人の噂も七十五日」とは反対に、噂がすぐに広まってしまう側面を強調しています。
英語表現(類似の表現)
- A nine days’ wonder.
直訳:九日間の驚き。
意味:一時的に話題になるが、すぐに忘れられてしまうこと。 - Fame is a vapor.
直訳:名声は蒸気である。
意味:名声は儚く、すぐに消えてしまうものだということ。 - Today’s headlines are tomorrow’s wrapping paper.
直訳:今日の見出しは明日の包装紙。
意味:今日のニュースも明日には価値を失い、忘れ去られてしまうということ。
使用上の注意点
「人の噂も七十五日」は、悪い噂をされた人を慰める際に使うことが多いですが、安易に使うと、相手の気持ちを軽く見ていると捉えられかねません。
また、このことわざを都合よく解釈し、自分の不祥事を時間経過でうやむやにしようとするのは避けるべきです。
噂が忘れられるまでの期間は状況によって異なるため、絶対的なものではないことも理解しておく必要があります。
まとめ
「人の噂も七十五日」は、どんなに大きな噂も、人々の関心は移ろいやすく、時間とともに忘れ去られていくという、世の中の儚さを教えてくれることわざです。
この言葉は、一時的な評判に振り回されず、冷静に行動することの大切さを教えてくれるとともに、辛い状況にある人を慰める際にも、そっと寄り添うような優しさを持っています。
しかし、このことわざを都合の良いように解釈するのではなく、噂の持つ影響力や、時間経過による変化を理解した上で、適切に使うことが大切です。
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