意味
「春眠暁を覚えず」とは、春の夜は気候が穏やかで心地よく、ぐっすりと眠れるため、夜明けにも気づかずに寝過ごしてしまうことを表す言葉です。
また、そこから転じて、心地よいものに包まれて時が経つのを忘れてしまう、ぼんやりとした状態を表すこともあります。
語源・由来
この言葉は、中国唐代の詩人、孟浩然(もうこうねん)の漢詩「春暁(しゅんぎょう)」の冒頭の一節に由来します。
「春暁」は、春の夜明けの情景をうたった五言絶句で、自然の美しさと、それに対する作者の穏やかな心情が表現されています。
「春暁」
春眠不覚暁 (春眠 暁を覚えず)
処処聞啼鳥 (処処 啼鳥を聞く)
夜来風雨声 (夜来 風雨の声)
花落知多少 (花落つること 知る多少ぞ)
(現代語訳)
春の眠りは心地よく、夜明けにも気づかない。
あちこちで鳥のさえずりが聞こえる。
昨夜は風雨の音がしていたが、
花はどれくらい散ってしまっただろうか。
孟浩然は、自然を愛し、隠遁生活を送ったことで知られる詩人です。
「春暁」は、彼の代表作の一つであり、その美しい情景描写と平易な言葉遣いから、広く人々に親しまれてきました。
日本には平安時代に伝わり、多くの文学作品や絵画に影響を与えたと言われています。
使用される場面と例文
「春眠暁を覚えず」は、主に春の朝の寝過ごしや、うとうとした状態を表す際に使われます。
また、比喩的に、心地よい状況に浸って時間を忘れてしまう様子を表すこともあります。
例文
- 暖かな日差しに包まれて、春眠暁を覚えず、ついうたた寝をしてしまった。
- 週末は久しぶりに何の予定もなく、春眠暁を覚えず、のんびりと過ごした。
- ポカポカ陽気の公園で読書をしていたら、春眠暁を覚えず、気がつけば夕方になっていた。
- 気持ちの良い音楽を聴いていたら、春眠暁を覚えず、いつの間にか時間が過ぎていた。
文学作品等での使用例
清少納言の『枕草子』には、「春はあけぼの」という有名な一節がありますが、これは「春暁」の影響を受けているという説があります。
春はあけぼの。
やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。(『枕草子』より)
(現代語訳)
春は夜明けがいい。
だんだんと白んでいく山の稜線が、少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいているのがいい。
『枕草子』のこの部分は、「春暁」の情景描写と共通する部分があり、春の夜明けの美しさを捉えている点が共通しています。
類義語
- 春眠日高(しゅんみんひたか):春の朝は気持ちよく、つい寝過ごして日が昇っても気づかないこと。
- 春宵一刻値千金(しゅんしょういっこくあたいせんきん):春の夜は趣深く、わずかな時間でも千金の価値があるということ。
※ふりがなの箇所は太字にしない。 - 春眠不覚(しゅんみんふかく): 春の眠りが深いこと。
関連する季語
- 春眠(しゅんみん): 春の眠り。春の季語。
対義語
- 秋霜烈日(しゅうそうれつじつ):秋の霜と夏の日差しが厳しいことから、刑罰や志操などが厳しく、激しいことのたとえ。
英語表現(類似の表現)
- In spring, one sleeps so soundly that one does not notice the dawn.
意味:春は、人はぐっすり眠るので、夜明けに気づかない。 - Spring slumber.
意味:春の眠り。 - The pleasant idleness of a spring day.
意味:春の日の心地よい怠惰。
まとめ
「春眠暁を覚えず」は、春の心地よい眠りから、つい朝寝坊してしまう様子を表す言葉です。
また、心地よい状況にひたり、時を忘れてしまうことのたとえとしても使われます。
この言葉は、中国唐代の詩人、孟浩然の漢詩「春暁」に由来し、日本では平安時代から親しまれてきました。
春のうららかな陽気を感じさせる、美しい言葉です。
コメント