意味
「噂をすれば影が差す」とは、ある人について噂をしていると、偶然その本人が現れることを言います。
まるで噂話がその人を呼び寄せるかのように感じることから、この表現が使われるようになりました。
「影が差す」は、人が現れる様子を比喩的に表しています。
「噂をすれば」「噂をすれば影」「噂をすればなんとやら」という表現もよく使われます。
このことわざは、単に偶然の一致を表すだけでなく、以下のようなニュアンスを含むことがあります。
- 不思議な感覚:言葉が現実を引き寄せるような、説明のつかない現象への驚きや不思議さを表します。
- 戒め・警告:軽々しい噂話への戒めや、後ろめたい気持ちがある時に感じる警告として解釈されることもあります。
- 気まずさ:特に悪口や秘密の話をしていた場合、本人の登場によって生じる気まずさを強調します。
語源・由来
「噂をすれば影が差す」の正確な起源は不明です。
しかし、このことわざは古くから日本で使われており、口承で伝えられてきたと考えられます。
昔の人々は、言葉には霊的な力(言霊)が宿ると信じていました。
そのため、噂話をすると、言霊の力で本人が引き寄せられると考えたのかもしれません。
また、「影」という言葉には、人の気配や存在感を暗示する意味合いがあります。
使用される場面と例文
「噂をすれば影が差す」は、主に以下のような場面で使われます。
- ある人について話していると、偶然その本人が現れたとき。
- 誰かのことを話題にしていると、その人から連絡があったとき。
- 偶然の一致に驚き、少し気まずい思いをしたとき。
例文
- 「田中さんの新しい髪型、素敵だよね」「本当。…あ、噂をすれば影が差すとはこのことだ。田中さん、こんにちは!」
- 「最近、山田さんに会わないね」「そうだね、どうしてるんだろう…って、あれ? 噂をすれば影が差す、山田さんじゃないか!」
- 「課長、最近機嫌が悪いらしいよ」「え、そうなの?…(課長登場)あっ、噂をすれば影が差す…。」
- 「あの店のケーキ、美味しいらしいよ」「へえ、今度行ってみようかな…って、あれ、あそこにいるの、あの店の店員さんじゃない? まさに噂をすれば影が差すだね。」
文学作品等での使用例
「どうも、噂をすれば影とやらで、飛んで参りました」
太宰治の小説『走れメロス』では、人を信じることができない王様が、メロスの友人セリヌンティウスに、「噂をすれば影とやらで」と皮肉を込めて語りかける場面があります。
類義語
- 呼べば答える柴の庵(よべばこたえるしばのいおり):誰かのことを話していると、その人が現れることのたとえ。
- 説曹操、曹操就到(そうそうをいえばそうそうがくる):中国のことわざ。曹操の噂をすると、すぐに曹操が現れる。
関連する心理学の概念
- シンクロニシティ(共時性):意味のある偶然の一致。心理学者のユングが提唱した概念で、「噂をすれば影が差す」現象を説明する際に引き合いに出されることがあります。
対義語
このことわざに明確な対義語はありません。
英語表現(類似の表現)
Speak of the devil (, and he is sure to appear).
直訳:悪魔の噂をすれば、(必ず悪魔が現れる)。
意味:噂をすれば本人が現れる。
例文:
We were just talking about John, and here he is! Speak of the devil!
(ちょうどジョンのことを話していたら、彼が来たよ! 噂をすれば影だね!)
使用上の注意点
「噂をすれば影が差す」は、良い噂にも悪い噂にも使われます。
しかし、悪い噂の場合、本人が現れたときに気まずい雰囲気になることがあります。
そのため、このことわざを使う際は、場の空気を読むことが大切です。
また、このことわざは、あくまで偶然の一致を面白おかしく表現するものですが、場合によっては、噂話を慎むようにという戒めや警告の意味合いを含むこともあります。
噂話が本当に人を引き寄せるわけではありません。科学的な根拠はありません。
まとめ
「噂をすれば影が差す」とは、ある人のことを噂していると、偶然その本人が現れることを指すことわざです。
言葉には不思議な力があると感じていた昔の人々の感性が、現代にも伝わっています。
偶然の一致に驚いた時、このことわざを使うことで、その不思議な状況を表現したり、会話のきっかけにしたりすることができます。
コメント