「虎に翼」とは? – 意味と教訓
「虎に翼」とは、もともと強い力を持つものに、さらに別の強さが加わり、勢いを増すことを意味することわざです。非常に力強い印象を与えます。
2024年度前期には、このことわざをそのまま番組タイトルになった、NHKの連続テレビ小説『虎に翼』も放送され、その意味や背景に関心が集まりました。
例えるなら、強大な力を持つ虎に、空を飛ぶための翼が備わるような状況です。
そうなれば、陸だけでなく空においても比類なき強さを手に入れることになります。
このように、「虎に翼」は、強いものが一層強力になる様子を的確に表す表現です。
語源・由来 – 『韓非子』の記述
このことわざの出典は、中国の古典『韓非子(かんぴし)』にある一節です。『韓非子』は、中国の戦国時代(紀元前3世紀頃)に書かれた法家思想の書物で、君主が国を統治するための術策などが論じられています。
その中の「難勢(なんせい)」篇に、賢者が不遇な状況にあることを論じ、権力や地位の重要性を説く文脈で、以下の記述が見られます。
是以虎傅翼、強不可當也。
(読み下し:是(これ)を以て虎に翼を傅(つ)くときは、強きこと当る可からざるなり。)
現代語訳すると、
「(権力や地位を得ることは)虎に翼を付けるようなものであり、そうなれば強くて誰も対抗できなくなるだろう」
という意味になります。
この『韓非子』の一節が元になり、もともと強いものに更なる強さが加わり、手がつけられないほどの状態になる、という意味で「虎に翼」ということわざが使われるようになりました。
使用される場面と例文 – どのような状況で使うか
「虎に翼」は、人や組織が新たな能力や有利な条件を得て、さらに強力になったり、勢いを増したりする場面で用いられます。
多くの場合、その強化を肯定的に評価する文脈で使用されます。
例文
- もともと優秀な彼が最新技術を習得したのだから、まさに虎に翼だ。
- 強力なエンジンを搭載した新型車両は、まさに虎に翼と言えるだろう。
- あの企業がA社を買収すれば、市場での影響力は虎に翼を得たように増すはずだ。
- 抜群の運動神経を持つ選手が、名コーチの指導を受けることになった。まさに虎に翼の状態である。
類義語
- 鬼に金棒(おににかなぼう):
ただでさえ強い鬼に、強力な武器である金棒を持たせる、という意味。
「虎に翼」とほぼ同義で、最も一般的に使われる類語です。より力強さや、場合によっては荒々しさが感じられる表現です。 - 弁慶に薙刀(べんけいになぎなた):
武勇に優れたことで知られる武蔵坊弁慶に、得意武器である薙刀を持たせること。
特定の人物(弁慶)にたとえ、個人の能力や技量が一層高まる状況を表します。 - 獅子に鰭(ししにひれ):
陸の強者である獅子に、水中活動を可能にするヒレをつける、という意味。
活躍の範囲が広がり、さらに強力になるたとえですが、「虎に翼」や「鬼に金棒」ほど頻繁には使われません。 - 竜に雲を得たる如し(りゅうにくもをえたるごとし):
竜が天を自在に駆けるために不可欠な雲を得たように、優れた人物などが活躍の機会を得て、大いに勢いを増すことのたとえ。
「活躍の機会を得る」というニュアンスが特徴的です。
これらの類義語は、「強いものがさらに強くなる」という根本的な意味は共通していますが、比喩の対象や加わる要素によって、示唆するニュアンスが異なります。
関連語 – 中国の四字熟語
- 如虎添翼(じょこてんよく):
中国の成語(四字熟語)で、「虎に翼を添えるが如し」と訓読できます。
「虎に翼」と全く同じ意味を表す言葉です。
対義語 – 反対・対照的な意味の言葉
「虎に翼」とは逆に、力が弱まったり、持っている能力を生かせなかったりする状況を表す言葉が対義語として考えられます。
- 宝の持ち腐れ:優れた才能や価値のある物を持ちながら、それを活用せずにいること。
(強みが生かされていない状態) - 猫に小判:価値の分からない者に貴重なものを与えても、何の役にも立たないことのたとえ。「豚に真珠」も同義です。
(加わったものが強みにならない状態) - 弱り目に祟り目:不運な状況にある上に、さらに不幸な出来事が重なること。「泣きっ面に蜂」も類似の意味です。
(「虎に翼」が良い状況がさらに良くなるのに対し、悪い状況が悪化する状態) - 無用の長物:あっても何の役にも立たず、かえって邪魔になるもの。
(加わったものが強みになるどころか、マイナスになる状態)
英語で表現すると? (Similar English Expressions)
英語には「虎に翼」に直接相当する定着した慣用句は少ないものの、類似の状況を表す表現は存在します。
- Give wings to a tiger.
直訳:虎に翼を与える。
文字通りの訳ですが、強いものをさらに強くするという意味は伝わる可能性があります。ただし、一般的な慣用句ではありません。 - Adding fuel to the fire/flames.
直訳:火に燃料を加える。「火に油を注ぐ」にあたり、通常は状況を悪化させるネガティブな文脈で使われます。 - Make someone/something even stronger.
意味:(人や物を)さらに強くする。状況を直接的に説明する表現です。 - Give someone an advantage.
意味:誰かに有利な点を与える。強みが増す、有利になる状況を表します。
まとめ – 強さへの賛辞と、時に警戒を込めて
「虎に翼」は、もともと強いものが、さらに強力な要素を得て一層その勢いを増すことを意味することわざです。
中国の古典『韓非子』に由来し、「強い虎に翼が加わる」という比喩は、その力強さを端的に示しています。
基本的には能力の向上や有利な状況の獲得を肯定的に表現する際に使われます。
類義語の「鬼に金棒」と同様、何かがより強力になることへの賛辞として用いられるのが一般的です。
ただし、文脈によっては注意が必要です。
元来脅威と見なされる存在がさらに強力になった場合にも「虎に翼」と表現されることがあり、その際は強化に対する警戒感や懸念のニュアンスを伴います。
このことわざは、その力強いイメージから、ビジネス、スポーツ、個人の成長など現代の様々な場面で効果的に用いられています。
NHKの連続テレビ小説『虎に翼』(2024年度前期放送)のタイトルにも採用され、言葉の持つ今日的な意義と普遍性を示しています。
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